頭の引き出しを増やす法則

 精神科医 和田 秀樹

 前回 く2004.5.14 No.04・089)、記憶力

が落ちたと嘆く前に、脳の仕組みを知ったり、

若い頃とある程度以上の年齢の人間とでは記

憶のシステムが違うことを知るべきだと話し

た.

 もう−つ大切なのは、記憶そのもののメカ

ニズムを知ることで吉己憶力を上げることだ.

 もちろん、脳の中のメカニズムは単純なも

のではないので、コンピュータの考え方をそ

のまま応用することはできないが、心理学で

は、コンピュータのソフト開発から類推して

人間の情報処理過程を研究することが多い.

 そこでの基本的な考え方では、、記憶は入力

と貯蔵と出力の3段階に分けられている.

 革近はコンピュータにならって、符号化、

貯蔵、検索などと呼ぶが、実は青から、記銘、

保持、想起という具合に吾己憶は3段階に分け

られていたから、この考え方は古今を通じて

妥当だということなのだろう。

 さて、今回は入力をよくするための方法論

を考えてみよう.

 まず言っておきたいのは、わからないこと

の入力はきわめて困難だということだ。

 実際、紀憶が単純暗記型だった小さな子ど

もの頃は、わからないことでも何でも丸晴紀

でどんどん覚えられたことだろう.しかし、

体験が伴う記憶であるエピソード記憶が主体

である大人になったのだから、理解が伴わな

いとなかなか覚えられないのは納得できるこ

とだ。さらに言うと、実はこれは紀憶の入力

段階に大きな影響を及ぼす。わかることであ

ればスムーズに入力できるが、わからないこ

とはなかなか入力できない.たとえばカラオ

ケの歌詞にしても、日本語でなら簡単に入力

できるが、わけのわからない著者言葉や外国

語が混じると、おじさん、おばさんには急に

覚えにくくなる.英語が苦手な人には英語の

歌詞は覚えにくいだろうし、私にしてもフラ

ンス語のシャンソンだとお手上げだ.

 逆に言うと、ある一定以上の年齢になって、

何かを覚えたければわかるための努力は必須

だということだ。ところが、歳をとるほど、

これがしにくくなる人がいる.たとえば、い

い年をして恥ずかしいといって、わからない

ことを人に聞けなかったり、あるいは見栄を

はって、入門書を貫えばいいのに、ハイレベ

ルな本を買ってしまうというわけだ.

 頭の引き出しを増やすためには、まず「わ

かる」ことを心がけること.これが第−の習

慣と言ってよい.

 もう−つ入力に大切とされているのは、

「注意」である.これは集中力と関心からなる

のだが、集中力を人為的につけるのは難しい。

むしろ、睡眠不足や心配事、深酒のように集

中力を落とすものを滅らしていきたい.関心

のレベルが高ければ覚えられるということは

誰でも経験しているだろう。単純暗記が苦手

な私でもなぜかワインの名前は覚えられる.

 最後に言っておきたいのは、情報より知識

が大切だと以前語ったが、知識の歩留まりを

あげるためには、むしろ入力情報は絞り込ん

だほうがいい.何でも覚えようとするより、

必要なものを絞り込める人のほうが頭に残る

ものが多く、物知りと言われるのだ.


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Last-modified: 2006-08-19 (土) 10:56:08