UFJ経営情報クラブ
【営業が変わる(5)】
小企業にもある営業プロセスマネジメントの効用
 神戸大学大学院 経営学研究科 教授 石井 淳蔵
 これまで4回にわたって営業プロセスのマ
ネジメントをテーマにしてきたが、その核心
は「取引案件」の「進捗管理」にある。お客
さんとの間に生まれた案件は、営業担当者の
頭の中や手帳の中に隠さず、いかにオープン
にするかが肝心要。オープンにすることで、
組織の誰もが案件の進捗具合を見ることがで
き、組織としての協力が可能になる。
 これは、小さい企業にも必要だ。というよ
り、小さい企業だからこそ必要だ。「営業プ
ロセスをステップに分ける」というと、仕事
の分業が必要だという風に思ってしまい、
「それは大人数の営業担当者を抱えた大企業
しかできないこと。営業担当者の人数も少な
いわが社ではムリだ」と、つい思ってしまい
がちだ。しかし、そうではない。
 たとえ営業担当者が1人であっても、営業
プロセスをステップに分ける効用は大きい。
1人の営業は、複数の案件を抱えて猫の手も
借りたいくらいに忙しいのが普通だ。様々な
お客さん相手に、何件もの案件を抱えること
だろう。そのとき、営業のプロセスをステッ
プに分けて、それぞれの案件の状態(プロセ
スの何段階目まで進んでいるか、お客さんは
どの程度自社で買う気があるか)を把握する
ことで、いくつもの効用が生まれる。
 案件をそのようにステップ毎に整理してお
けば、まず第1に、営業担当者自身のムリ・
ムダ・ムラがなくなる。ある案件をつい忘れ
てしまった、逆に二度同じことをしてしまっ
たなんてミスやムダは減るだろう。思いつき
でお客さんのところに訪問するとか、行きた
くないお客さんのところには行かないとかい
ったムラもなくなる。それぞれの案件の進捗
に合わせてお客さん訪問計画を決めることが
できるので、ムリも減る。
 第2に、社長(あるいは営業部長)である
あなたにもいろいろな効用がある。
1)それぞれの案件について、それがどこま
 で進んでいて、どんな問題を抱えている
 のか、手助けできることはあるか……案
 件の進捗がオープンになっていれば、そ
 の営業担当者にいちいち聞かなくても見
 える。正確な商談報告に基づいているな
  ら、成約までの時間もほぼ予測できる。
2)いつ、社長がその営業担当者に同行すれ
 ぱよいのか。あるいは、技術や工場の担
 当者は、いつ説明のために同行しなけれ
 ばならないのかについても、事前に腹づ
 もりができる。工場や技術の人間も、突
 然同行して欲しいと言われると、自分の
 仕事の手順が狂ってしまう。そこにもム
 リやムラが生まれる。
3)営業の仕事を分けて把握することで、営
 業のうち、ある一部の仕事をアウトソー
 シングできることもある。外部の力を利
 用できれば、小さい営業規模で効率的な
 営業が可能になる。
 しかし、こうした効用が生まれる前に、社
長であるあなたはいくつかのポイントを押さ
えておかなくてはいけない。
 まず第1に、「営業の一番大事な仕事は、
お客さんとの商談の状況をきちんと報告する
ことだ」ということを徹底しておく必要があ
る。そのためには、繰り返しになるが、「営
業は、売り込むことが仕事ではなく、お客さ
んの問題を解決することが仕事だ」というこ
とを社長自身、肝に銘じておかなくてはいけ
ない。
 第2に、「営業を会社全体で支える」とい
う実績を作る必要がある。商談内容(取引相
手の誰と、どのようなテーマで、何が決まり
何が決まらなかったのか)さえきちんと報告
しておけぱ、順調に進んでいたはずの案件に
突然、問題が起きたときでも、「社長以下、
会社が総力を挙げて支援してくれる」という
信頼感を営業担当者がもてるようにしなけれ
ばならない。そうして初めて、営業担当者に
商談の状況を正確に伝えようという気持ちが
生まれてくる。


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Last-modified: 2006-08-19 (土) 10:56:12