【実践! 感情コントロール術(3)】
不安の悪循環を断つ
精神科医 和田 秀樹
前回(2005・6.10No・05・107)、うつ的な感
情のコントロール術をご紹介したが、もう−
つ我々を悩ませる感情として、不安にどう対
処するかを考えてみよう。
 私は、受験生向けの本をたくさん書いたり、
受験生相手の通信教育を主宰しているためか、
受験生の不安にまつわる質問を多く受ける。
 落ちることが不安で勉強が手につかないと
いうような悩みである。
 そういう際に私は、「不安なのは当たり前、
むしろ落ちる不安がないと勉強をしないだろ
う」と答えている。ただ、不安であることよ
り、問題なのは「勉強が手につかない」こと
である。要するに、不安が問題なのではなく
て、不安に振り回されていることが問題なのだ。
 実際、不安なことや不調なことがあった場
合、そのことを気にしだすと、余計に不安や
不調がひどくなることが多い。たとえば歯が
痛いとか、額が赤いとかいう場合に、それを
気にしていると、余計にひどくなったように
感じられたりする。そのためにさらに歯が痛
いことや顔が赤いことが気になってしまう。
こうなってしまうと、それこそ勉強が手につ
かなくなってしまうだろう。
 こうして症状や感情に注意を向けると、さ
らに症状や感情が強くなって、それがさらな
る注意を呼ぶという悪循環に着目したのが、
1920年代に、おそらく世界でもっともたく
さんのノイローゼの患者を治療したといわれ
る、東京慈恵会医科大学初代精神科教授の森
田正馬氏である。
 彼の考案した治療法は、森田療法と呼ばれ、
現在でも通用する精神医学の治療法であるが、
彼の考えの画期的なところは、不安や症状は
自分ではどうしようもないから、それを取り
除こうとするのはやめようということである。
ほかの治療法は原則的に不安に強くなるとか、
不安を軽減しようと試みるものであるから、
まったく違う発想だ。
 要するに、不安や症状に注意がいくため悪
循環が起こるのだから、そこに注意がいかな
いようにすればよい。そしてそのために、今
やるべきことをやろうというわけだ。
 つまり、顔が赤いのが不安でも、人に会う
ことはできる。そもそも彦頁が赤くなるのが不
安なのは、相手に嫌われたくないためなのだ
から、顔が赤くても、嫌われないように−生
懸命しやべるようにする。相手に嫌われなけ
れば顔が赤くてもいいじやないかと。
 森田療法のユニークな点は、話すことに神
経を集中させているうちに、知らない間に顔
が赤いのは気にならなくなるということに着
目したことだ。歯が痛くても一生懸命仕事を
続けていると、仕事がはかどる上に、歯が痛
いのが気にならなくなる。
 不安や症状と、いうのは、自分の力ではどう
しようもないものであるが、自然にしていた
方が解決するのである。不安というのは、そ
れに振り回されるのではなく、それとつきあ
っていればいいのだという逆転の発想があれ
ぱ、そう怖いものではない。
 むしろ不安をバネに今なすべきことを一生
懸命やるようにするのが、意外にメンタルヘ
ルスにいいのだ。
(和田秀樹HP http://www.hidekiwada.com/


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Last-modified: 2006-08-19 (土) 10:56:10