【社員の「やる気」を科学する(2)】
社員満足の現状を把握する
UFJ総合研究所 組織人事戦略部(東京)プリンシパル 吉田 寿
◆いまどれくらい満足?
「満足度」を考える場合、まずそれが計測可
能かどうかというところから出発するものか
もしれない。なぜなら、満足しているか否か
は、個人個人のきわめて感覚的な問題であり、
それを数値化するのは、一見難しそうな気が
するからである。
ES(社員満足度)調査の場合には、この個
人個人の心の状態、つまり「心理的尺度」を
一定の「数値尺度」に置き換える作業が必要
となる。つまり、一人ひとりの心の思いを例
えば、「非常に満足」から「非常に不満」ま
で5段階とか7段階とか一定の段階で捉え、
その満足レベルのどの段階にあるかを確認す
ることで、調査結果に意味を与えるのだ。
我々がES調査を実施する場合には、まず
このトータル的な満足度のレベルを確認する
ところからスタ−トする。これを「総合満足
度」と呼んでいる。
具体的な設問では、まず調査票のいちばん
最初で「あなたはいま総合的にみてどの程度
満足していますか?」という問いかけから始
める。ES調査の中では、これがいわゆる総
合満足度の代表指標となり、組織や個人がど
の程度満足しているかを把握する場合には、
まずこの代表指標である総合満足度のスコア
に着目することになるのだ。
◆満足度を構成する要因は何か?
さて、それではこの満足度(=総合満足
度)とは、いったいどんな要素から構成され
るのだろうか。
我々が実施しているES調査の中では、満
足度を構成する要因を、大きく「衛生要因」
と「動機づけ要因」からなるものと位置づけ
ている。これは、有名なフレデリック・ハー
ズバーグの「動機づけ・衛生理論」(あるい
は「二要因理論」)に依拠する考え方である。
ここでいう衛生要因(Hygiene Factors)
とは、不満足を強化する要因のこと。つまり、
満足度を構成する要素の中で、それがある一
定の水準にないと不満に思える要因のことで
ある。総合満足度が低い場合には、この衛生
要因に問題がある場合が多い。これに対して、
動機づけ要因(Motivators)とは、満足度を
強化する要因のこと。つまり、満足度を構成
する要素の中で、それを刺激すると満足度が
高まる要因のことである。総合満足度を向上
させるためには、この動機づけ要因を刺激し
積極的な改善を図る必要が出てくる。
衛生要因を構成するものには、例えば、報
酬水準や福利厚生・労働条件、組織風土や対
人関係、業務支援等のインフラ整備、会社の
経営方針もこの範疇に入る。一方、動機づけ
要因には、人事評価や処遇、仕事のやりがい、
仕事を通じた自己の成長などが挙げられる。
これらの要因を、ES調査の質問項目の中
にさまざまな形でちりばめるのである。
◆満足度に影響する要因を突き止める
実際の調査票の設計では、これら満足度の
構成要素をよく念頭に置きながら、満足度を
測定するための仮説を立てる。つまり、どこ
に問題があるかをあらかじめ想定し、それを
質問項目に反映させるのである。統計的には、
目的変数としての総合満足度を構成する要因
(説明変数)が何かを突き止めるという作業
になる。この場合の調査票は、ESの現状を
知るための仮説検証ツールの位置づけである。
分析にあたっては、満足度の量的な把握や
比較だけでなく、統計的手法を使ってより重
要な課題の優先順位づけを実施する。
この場合、重剛帝分析などの手法を用いて、
例えば、個別項目の満足度の高低を縦軸に、
総合満足度への影響度を横軸にとって、満足
度が低くかつ総合満足度への影響度が高い項
目は何か、などを突き止めていく。このよう
なプロセスの中から、満足度を高めるための
施策が見えてくるのである。
※次回は「個別満足度の現状を知る」(仮題)です。