【実践! 感情コントロール術(1)】
社会的成功を左右する感情のコントロール能力
 精紳科医 和田 秀樹
 日本人は、比較的感情のコントロールがう
まいように考えられている。
 確かに激しい喧嘩は少ないし、暴力沙汰も
多くはない。嫌なことを辛抱強くやることで
も、根気よく、長い期間にわたって、仕事や
受験勉強を続けるこ七でも知られる。
 しかし、昨今の若者の意欲や根気のなさ、
あるいは最近の凶悪犯罪などを見る限り、日
本人の感情コントロール能力は、昔ほどあて
にならないようだ。
 ところが一方で、最近の心理学の考え方で
は、感情のコントロールの必要性は高まっそ
いるし、おそらく、それが仕事上の能力に大
きな影響を与えることもわかってきた。
 アメリカで、IQや学歴が高いのに、社会
で成功できない人を研究して、その必要性が
明らかになった感情の知能・EQにおいても、
第一にあげられるのが、感情のコントロール
能力である。要するに、感情のコントロール
能力がなければ、いくらよい教育を受け、い
くら知的レベルが高くても、社会で成功でき
ないのだ。
 あるいは、うつ病などの治療法として、注
目を集めている認知療法の考え方でも、人間
の感情がその認知や判断に大きな影響を与え
ることが明らかになってきている。
 たとえば感情が落ち込んでいるときには、
必要以上に悲観的な判断をしがちだし、悲観
的なことしか考えられなくなる。逆にハイな
気分のときは、楽観的な、ときには向こう見
ずな判断をしやすい。
 つまり、感情のコントロール能力が判断力
や思考力にも影響を及ぼすのだ。
 対人関係能力ーつ取ってみても、感情のコ
ントロールが悪くて、ちょっとしたことで怒
ったり、いつも仏頂面をしているようだと、
いい人間関係を作りにくいだろう。逆に機嫌
よくニコニコしている人を見ていると、なん
となく話しかけやすい。
 さらに、ムードメーカーということばがあ
るように、この手の機嫌のいい人がいると、
場の雰囲気がなごむが、逆に、不機嫌な人が
いると周囲の雰囲気まで衰くなる。
 この感情の伝播作用は、これまで考えられ
ている以上に強そうだというのが、社会心理
学や集団精神療法学などでよく語られること
だ。
 感情のコントロール能力が、対人関係以上
に大切なのは、自分のメンタルヘルスに大き
な影響を及ぼすことだ。感情のコントロール
ができず、たとえば落ち込みやすい人は、そ
の落ち込みが悲観を生み、さらなる落ち込み
の原因になる。結果的に重症のうつになり得
る。この悪循環が怖いのだ。年間3万人以上
の自殺者が出ていることは人ごとではない。
とくに中高年の男性は、その危険度が高いの
だが、かなりの比率で感情のコントロールの
悪さによる悪循環が原因となり、引き起こさ
れる。
 感情というのは、自身に対しても、感情が
認知を変え、変えられた認知が感情をさらに
激しくするという悪循環を生むし、自分の感
情が他人に伝播して、一人の不機嫌が集団で
増幅されるという悪循環をも生む。
 この想像以上に怖い感情について、次回か
らは具体的なコントロール術を紹介しよう。


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Last-modified: 2007-06-04 (月) 23:39:50