UFJ経営情報クラブ 2005.9・9 No.05−166
【実践! 感情コントロール術(5)】
 脳科学からみた感情のコントロール術
精神科医 和田 秀樹で
 これまでは、主に心理学の立場から感情の
コントロール術を論じてきたわけだが、最終
回の今回は、脳科学の立場から感情のコント
ロール法を考えてみよう。
 人間、誰でも、ふだんは感情のコントロー
ルがそれほど悪くないはずなのに、日によっ
て感情のコントロールがうまくいかないこと
があるものだ。いわゆる“虫のいどころの悪
い日”というものである。
 最近の脳科学の考え方では、これは食生活
の影響が大きいとされている。
 ブドウ糖は、脳に対する栄養源の一つだが、
これが足りなくなるとイライラの原因になる。
もちろん糖尿病のレベルになるようだと問題
だが、血糖値が高いときのほうが気分がいい
ように人間はできているのだ。
 だから、朝飯抜きというのは、脳に悪い。
よくよく考えると、朝食と昼食の間は約5時
間、昼食と夕食の間が7時間なのに対して、
夕食と翌日の朝食の間は12時間もあるのだ
から、朝は放っておくと低血糖になる。
ここできちんと朝食をとらないと、イライラの原
因になるだけでなく、仕事の能率も落ちる。
 微量元素と感情のコントロールの関係も、
最近は問題にされている。
 諸調査の結果では、1日にとる食品の品目
が少ないほど、きれやすい子供になるという。
フアストフードだけでなく、なるべくいろい
ろなものを食べておきたい。
 最近、とくに注目されているのが、コレス
テロールと感情の関係だ。コレステロールに
はセロトニンという神経伝達物質を脳に運ぶ
働きがあるが、このセロトニンこそが、感情
面でかなり重要視されているものだ。
 たとえばセロトニンが足りないとうつ病に
なったり、意欲が衰えたり、イライラがひど
くなることが知られている。過度なダイエツ
トでコレステロールが不足するとうつになり
やすいし、イライラしやすくなる。また、セ
ロトニンの材料であるトリプトファンという
アミノ酸は肉に含まれるものなので、肉をあ
まりにとらないと、これまたセロトニン不足
になりやすい。
 そのほか、個人差はあるが、アルコールが
入ると感情のコントロールが悪くなり、怒り
っぽくなる人もいる。いったんアルコールが
入ってしまうと、自分で感情のコントロール
は難しくなるので、飲んで性格が変わるよう
な人は飲まないセルフコントロールが重要だ。
 最後に気をつけたいのは、歳をとるほど円
熟して、感情のコントロールができるように
なるというのは、どうも脳科学からみると幻
想だということだ。
 人間も中年以降になると、前頭葉といわれ
る部分の萎縮が目立ち始めるが、ここが萎縮
すると意欲が低下するばかりか、感情のコン
トロールも悪くなる。また、神経伝達物質も
減り始めるので、イライラがひどくなったり、
うつになりやすくなる。
 自分は年輪を重ねているなどと甘いことを
考えずに、歳をとるほど感情のコントロール
に心を配るようにすると、老害といわれない
で済むだろう。

(和田秀樹HP http://www.hidekiwada.com/


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Last-modified: 2006-08-19 (土) 10:56:09