UFJ経営情報クラブ2005.9.13 No.05・168
【営業が変わる(6)】
営業の分業:案件管理と関係管理
 紳戸大学大学院 経営学研究科 教授 石井 淳蔵
 これまで5回にわたって、拙書『営業が変
わる』を中心に、現代の新しい営業の姿を探
ってきた。それは、「営業案件のプロセス管
理」という名で要約できる。営業をプロセス
で考えるというのは、大きい会社で組織だっ
た営業を行う上で不可欠な考え方なのだが、
少人数の営業担当者しかいない小さな会社で
あっても、大事なことに変わりはない。なぜ
なら、小さな会社であればあるほど、市場や
お客さんを絞り込む必要があるし、貴重な
“人”という資源を無駄遣いできないからだ。
 以上の話は、営業における案件進捗に関わ
る話である。営業には、しかし、「案件」を
管理する仕事に加え、案件と共に、お客さん
との「関係」を管理する仕事がある。2つの
仕事は、分業されるのが望ましい。このテー
マを取り上げて、最終回としたい。
◆案件の束が関係を作る
1人のお客さんに複数の案件がある場合は
少なくない。私が、上記の本で取り上げた
IBM は、ある大手電機メーカーとの間に
300にも及ぶ案件があるという。その300に
も及ぶ案件の束が、IBMのその電櫻メーカ
ーとの関係に他ならない。
1つ1つの案件について、お客さんの抱え
る問題を解決することが、「案件」を担当す
る営業担当者の役目。できるかぎりスムーズ
に短い時間で案件を進捗させることで、その
営業担当者の評価は上がる。しかし、案件が
どんどん片づくと、案件の数はその分だけ減
る。何もしないと関係も先細りになる。そう
ならないようにするのが、「関係」を担当す
る営業担当者の役目である。
 関係を担当する営業担当者は、お客さんの
いわば「窓口」。「お客さんの考えているこ
とが隅から隅までわかっている」というくら
いにそのお客さんのことがわかっていないと、
その役目は果たせない。たとえば、IBMの
ような情報システムを商品として販売するの
であれば、お客さんの会社が、どのような分
野に進出したいのか、どの事業を再構築した
いのかを知っていないと、新しいシステム作
りの提案に遅れをとる。そのために、お客さ
んの置かれた状況や経営者の関心を常にフォ
ローする必要がある。そうなるように、日頃
からお客さんとの関係を深めておくことが大
事だ。
◆関係作りと癒着の違い
 しかし、そのことだけを強調すると誤解を
招く。というのは、関係を深めるだけの営業
担当者というのであれぱ、これまでにもたく
さんいたからである。お客さんとの間に単な
る親密な関係を作り出すというのは、これま
での属人営業の得意としたところである。そ
れだけで良いのか、というとそうではない。
 大事な点は、「関係も大事だが、案件も大
事」ということをよく理解することである。
「案件を作り出すために関係を深める」こと
が大事なのであって、「関係を深めただけ」
の努力は意味がない。「案件を作り出せな
い」関係作りは、「癒着」と言うしかなく、
百害あって一利なしである。「関係」担当者
の責任は、あくまで目に見える案件を作り出
すこと、これに尽きる。
 会社の経営者がやるべきことは、(1)お
客さんの「案件」と「関係」の仕事をはっき
り分けること、そして、(2)「関係」が
「案件」を作り出し、「案件」解決が良好な
「関係」を作り出す、そういう好循環を生み
出すような体制を作ること、である。
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Last-modified: 2006-08-19 (土) 10:56:12