UFJ経営情報クラブ
 【社員の「やる気」を科学する(5)】
 社員を起点に経営を見る
UFJ総合研究所 組織人事戦略部(東京) プリンシパル 吉田 寿
◆「ホリエモン事件」が教えたもの
 ホリエモンこと堀江貴文・ライブドア社長
が仕掛けたニッポン放送株の買収劇が「70
日戦争」とも形容されるフジサンケイ・グル
ープとの職烈な攻防戦を演じたのは、記憶に
新しい。
 この事件は我々に新たな事実を突きつけた。
世論的には、日本においても欧米並みのM
&A(企業の合併・買収)が本格的に始まっ
たとの認識である。村上ファンドの村上世彰
氏も「日本もそんな時代になったということ
だよ」と言い放った。今後いっそう株主重視
の経営を実践しなければと誰もが再確認した。
敵対的買収に関する聞き慣れない専門用語も
飛び交った。
 しかしその一方で、「他人の家に土足で踏
み込むような行為」といった感情的な反発が
あったことも見逃せない。「掘江氏が社長に
なったら会社を辞める」と明言するニッポン
放送の社員も続出した。タモリやビートたけ
し、中島みゆきなどの出演者からも、出演拒
否や番組降板宣言が出された。この事態に、
掘江社長も態度を軟化、従業員感情への配慮
を前面に出すようになった。
 この事件は、ES(社員満足度)経営、い
わぱ「社員に対する視点」の重要性を考える
うえで、非常に深い示唆を与えてくれる。
◆バランススコアカードで考える
 日本企業の経営の中でも、株主は以前にも
増して無視できない存在となっている。企業
価値創造の観点からもコーポレートガバナン
スからも、株主抜きの経営はもはや許されな
い。しかし、外部にばかり目が行き過ぎて内
側に向ける視点を失うと、不意に足元をすく
われることにもなるだろう。このことをよく
示しているのが、バランススコアカードだ。
 よく勉強されている読者ならご存じだろう
が、バランススコアカードは4つの視点を重
視する。それは、「財務の視点」「顧客の視
点」「ビジネスプロセスの視点」そして「学
習と成長の視点」である。この4つの視点に
基づく業績指標を、文字通りバランスよく見
ていくのがバランススコアカードの真髄だ。
しかし、その指標間の関係をよく理解してい
る読者は、どれくら・いいるだろうか?
 バランススコアカードでは、その4つの業
績指標間の関係性を整理するために「戦略マ
ップ」というものを作成する。その戦略マッ
プ上では、4つの視点が上から「財務」「顧
客」「ビジネスプロセス」「学習と成長」の
順に描かれる。つまり、最終的な企業価値や
株主価値を高めるためには、最終的に財務の
結果が問われるというわけだ。
 しかし、この構造からもわかる通り、その
起点にあるのは「学習と成長」。つまり、こ
れは平たく言えば社員に関する部分なのだ。
 つまり、社員一人ひとりが学習し成長する
ことで、それがビジネスプロセスの改善や創
意工夫につながって、革新的な商品やサービ
スを生み、顧客満足と顧客生涯価値を高めて
財務的成果に結実する。これが、結果的に株
主に報いるということだ。
◆「人から始まる経営改革」を実践する
 いまの世界は、もはや機械や土地といった
物的資産が利益を生み出す時代ではない。人
の創造的な仕事を通じて新たな価値を生み出
す時代なのである。最終的な財務成果による
株主価値の増大を見据えながらも、足元の社
員の実情に気を配り、その潜在的な能力の向
上を図る経営が何よりも重要な時代なのであ
る。
 社員を起点として経営を見てみると、これ
まで見えなかった新たな視界が開けてくる。
こう考えてみると、「人から始まる経営改
革」をどう実践していくかが、何より重要な
ことがおわかりいただけることと思う。
※次回は最終回「ES調査を施策に活かす」(仮
 題)です。


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Last-modified: 2006-08-19 (土) 10:56:09