妥協だらけのプラットフォームを救うのは何をしても難しい(Windows RTのライセンスを値下げか?)

 引用記事にあるように他社からリリースされていたとは知らなかったので、「Windows RT=Surface RT」という認識だった。また、「8インチ Windows 8タブレット がなんと、Office入りで379ドル」に書いたように Windows 8 搭載機が Surface RT の価格帯まで降りてきてしまった。

 「Surface RT はリファレンス機だ」としていたが、追随するものがいなければ無意味だ。Android が他社の参入を招き入れられたのはライセンス料を取らなかったからに他ならない。寡占市場に参入するのは並大抵のことではない。Google は Android でそれをやってみせた(それ以前のスマートフォン市場は Apple、Blackberry、Nokia で占められていた)が、その際には「ハードウェアでもOSでも利益を上げない」というメッセージを出し続けた。だから、Apple や Blackberry などの垂直統合モデルに参入を阻まれていたハードウェアメーカの支持を得られたのだ。そして、Micorsoft の資金力を持ってすれば、同じような戦略で市場をこじ開けることが出来るのではと注目されたのだった。ところが、Microsoft の取った戦略はチグハグでわかりにくいものだった。

 Windows 8(RT)、Surface について書いたエントリを検索したら iPad について書いたものより多かった(リンクを下に並べておきますので、暇な時にでも下から読んでいくと面白いかもしれません)。この一年で一番楽しませてもらったのが Surface かもしれない。iPad 3 を持っていることが iPad 4 や mini への関心を持つことへの心理的障壁になったのかもしれない。

リンクの後ろにある(緑文字)書きは2013年6月時点

  • Surface RT は発売後五ヶ月で110万台、Surface Pro は一ヶ月で 40万台:「米Bloombergの推計によると、Microsoftは3月半ばまでに合計150万台のSurfaceを販売した。このうち2月に発売した『Surface with Windows 8 Pro(Surface Pro)』の台数は40万台で、いずれも同社の販売目標には達していない。 」(500万台用意したのに150万台しか売れていないというのは大赤字だろう
  • Windows RTは『Xbox』になるか『Zune』になるか?:「Windows 8 搭載マシンは、Surface pro を始め、高価なものが多いが、これも時間の問題だろう。ネットブックのような価格帯の Windows 8 機が出たら RT は完全に行き場を失う。」(出てしまった・・・
  • 価格次第>「Surface RT」日本発売へ–皆さんのご意見は?:「Surface RT が売れるかどうかは価格にかかっている。キーボード無しの 32GB が 49,800 円では駄目だ。」(ほぼ予想通り
  • Surfaceは、先頭誘導員かレーサーか?:「もし Surface pro が日本で発売されるとしても、春先と夏賞与が一段落する8月以降になるだろう。」(これは完全に読み違えた。ボーナス商戦に打って出るとは思わなかった
  • 「Surface Pro」数時間で完売  らしいが・・・:「「準備された数量が少なかったから売り切れた」のか「買いに来た人が予想をはるかに上回ったために供給が追いつかなかった」のか分からない」」(2013/6/7 も売り切れ演出が繰り広げられるだろう
  • 2013年「Surface」が日本上陸&大ヒットするか?:「プラットフォームとして先行する iOS と Android に対抗するためにはハードメーカーの力が必要だ。MS から OS を購入して利益を失う Android 互換機メーカーが意欲を失わない程度の価格付けにせざるを得ないのかもしれない(それでも、RT 搭載機がサードパーティから出ていないことを見ると、Windows RT というコンセプト自体が終わってるのかもしれない)。」(風前の灯だ
  • ガッカリイリュージョン 2012:「「タッチパネル画面付きラップトップ(=Windows RT,8)」の失敗と iOS 6 の地図」(問題は iOS 6 にがっかりしたのはユーザで Surface にがっかりしたのは Microsoft なこと。影響が大きいのは前者だが。
  • アメリカやけど、Windows 8 Pro版Surfaceの価格が発表される。:「これを観る限りでは、Surfaceは iPad のようなタブレットと競合というより、Windows 7 搭載のクラムシェル型(普通のノートPC)ノートPCとより強く競合しているように見える。そう考えればこの価格でいいかもしれない。しかし、それでいいのかどうかは知らない。」(いよいよ日本でも Surface Pro の発売が開始される。
  • さもありなん>マイクロソフト、Windows RT 版 Surface は「まずまず」の売上げ バルマーCEO:「中途半端な office とブラウザしかないような端末を iPad と同価格(キーボードを含めた場合)で買う人はほとんどいないだろう。」(実際はガッカリだった
  • Microsoft「Surface」は iPad を脅かす存在になる?:「Windows 8 機の機能と性能を持ち Windows RT 機の軽さと値段のマシンが出れば iPad の天下を覆すかもしれないが、今ある RT は iPad 以上にアプリがなく iPad や Android タブレットと同様に Windows PC と互換性がない。Windows 8 はノートPCと互換性がある(というより Windows ノートPCそのもの)が、クラムシェル型のノートPCと重さも価格も差がないという代物だ。」(iPad はもちろん Galaxy も脅やかせなかった。
  • レビュー記事2題(Windows8, WindowsRT):「数年に一回しかパソコンを更新しない一般ユーザには参考にすべき記事ではないだろう。」
  • 強襲揚陸艦が来る。マイクロソフト、年末商戦に向けてSurface500万台を生産予定:「ウォッチャーとして楽しみなのは、Windows RT 互換メーカーだ。Surface に対抗できるコストパフォーマンスのハードを作ることができるのか。Surface の価格が対 iPad で驚くほどの安さとは思えないレベルなのは、互換メーカーの参入を可能にするためのものかも知れない。」(これほど存在感を示すことなく終わるとは思わなかった。500万台を予定していたのに・・・
  • エコシステムへの影響は? Surface への Acer,Lenovo の反応::「Acer の反応が自然だと思う。この市場の製造販売からしか利益を挙げられない組立屋ではこの価格は難しいのではないか。しかも、WindowsRTのライセンス料が$75もするとなると、黙っていられないだろう。おそらく、Acerは10インチAndroid端末を売っても一台当たり$100も粗利益は無いだろう。その大半をMSに差し出せというのと同じだからだ。」(2013/6 に見直すという話が報道された
  • もう?>底辺への長い競争に突入したタブレット:「生き残れるのは、プレミア価格でも売れるiPadと、コンテンツプロバイダーと、コンテンツプロバイダーにOEM販売するメーカー、7インチ端末を1万円未満で出せる聞いたこともないメーカーだけだろう。そうなってくると、OS のライセンス料が $75 という Windows RT を自社ブランドで出せるメーカーは消えるしかなくなる。 この答えは来年の今頃までには出ているか。」(Windows RT 退場
  • Windows RTタブレットはWin 8タブより300ドル安?:「一番興味深いのは、Windows RT のライセンス価格だ。なんと $75 もするらしい。$200〜$500 の市場価格の商品に新たに $75 もの OS を負担することが可能だろうか。」
  • Microsoft Surfaceにさわってみた, 独特のこだわりで超力作になってる:「Windows8が長期的に戦うための足掛かりを作れるか windows CE や pen windows のように忘れ去られるのかどうか見守りたい。」(まだ個人TTが残っている。

Windows RT と Surface RT については下の記事で総括されているが、発売前に作った 500 万台を捌かないことには次機種を出すこともできないのではないだろうか。

Microsoft、Windows RTのライセンスを値下げか? ―妥協だらけのプラットフォームを救うのは何をしても難しい | TechCrunch Japan
今朝(米国時間6/3)のBloombergの記事によれば、MicrosoftはWindows RTのライセンス価格を値下げするという。MicrosoftはRTの低調なセールスにテコ入れするのに懸命なようだ。

Windows RTはiPadに対するMicrosoftの回答という触れ込みで登場した。MicrosoftはWindows 8デスクトップ版OSから多くの機能を低消費電力のデバイスに移植し、iPadよりはるかに安定性の高いシステムを構築することを狙った。しかしその過程でMicrosofはOSの別バージョンを作ってしまい、デベロッパーはIntelベースのWindowsとARMベースのWindowsRT(Windows Phone 8、Xboxも同様)という2つのOSに対処しなければならないことになった。

Windows RTがリリースされてから8ヶ月たつが、メインストリームのWindows RTデバイスはほとんど存在しない。他方、Windows 8搭載デバイスは急速にWindows RTと同じ価格帯まで値下がりしてきた。

MicrosoftはiPadないしAndroidタブレットではなくてWindow RTを買うべき説得力のある理由をユーザーに与えることに失敗したといえる。Windows RTで喜んだのはもっぱらMicrosoft Officeを使う旅回りのセールスマンぐらいなものだろう。

値下げは多少の効果があるだろう。

Androidタブレットも初期の頃、価格設定で悩んだことがある。当時Androidタブレットは高価すぎたために存在意義が疑われていた(HTC Jetstreamなど)。そこに250ドルのB&N Nook Color、Amazon Kindle Fire、そしてNexus 7が登場した。200ドル台の低価格のおかげで、Androidタブレットは突如存在意義を復活させることができた。さらにSamsung他のメーカーが続いて、大型タブレットの価格も低下し、Androidタブレットは意味のある市場シェアを獲得した。

しかしWindows RTの場合、たとえ200ドルにまで値下げしても復活できるかどうか疑わしい。

主要メーカーは続々とWindows RTのサポートを打ち切っている。HPは最初期にRTのサポートを中止した。Samsungもすぐそれに続いた。HTCも最近RTタブレットの開発を中止した。

現行製品ではDell XPS 10、Surface RT、Asus VivoTab RTがWindows RTのロゴを表示している製品だ。BloombergによればDellはRTの新製品を開発中だという。しかしLenovoもRT搭載のIdeaPad Yoga 11の製造を早々に中止している。これら以外は問題とするに足りないような製品しかない。

Acerは最近ComputexでIconia W3を発表した。この8インチWindowsタブレットは今月中に379ユーロで発売開始されるようだ。このデバイスは720pディスプレイ、デュアルコアAtom Z2760 CPU、32または64GBのメモリ、microSD expansionスロットを備えている。しかしこのタブレットはWindows RTではなくWindows 8を搭載している。Acerの会長はWSJのインビューに対して、「Windows RTが今後大きな影響力を持つことはないだろう。フル機能のWindows 8が持っているソフトウェアの互換性を欠いているという大きな欠点をWindows RTが克服するのは難しい」と述べた。

Windows RTはそもそもの構想からして間違いだった。「バッテリーの長持ちか、それとも使い勝手か」という選択を消費者に強いたのは愚かだった。もちろん消費者は両方が備わっていることを望む―iPadがその例だ。

Microsoftは値下げの後、販売奨励金さえ出すことなるかもしれない。しかし消費者は、というよりもっと直接にメーカーが、はっきりと態度を表明している。消費者もメーカーもWindows RTが金を出すに値するプロダクトとは見ていない。当初から指摘されていたとおり、Surface RTはあまりにも妥協が多すぎるプラットフォームだった。

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