初めに混沌あり。コロンビアのバス乗客は何を信じてバスを待つ。

これは本文とは関係ありません。
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 カオス理論について理解は全然できないが、コロンビアのバスの到着時刻がばらばらになるのかについては、カオス理論を待つまでもなく、日常的な感覚でわかる。そして、日本のバスがそこそこ正確だが遅れることが多いこともだ。

 これは電波時計の正確性の担保方法と同じだ。実は電波時計は特に正確ではない。300円で売っているようなクォーツ式時計と同レベル(月差プラスマイナス15秒程度)でしかない。これより正確な機械式腕時計だって存在するレベルだ(ものすごく高価だが)。電波時計が正確なのは毎日時計を合わせるからだ。一日単位で見れば1秒も狂わない時計を毎日合わせるから実用上は狂ったように感じない。

 バス停の発車時刻を正確にするということはこれと同じ効果が得られる。そして、それは遅らせる方向にしか調整できないので、バスは遅れるのだ。

 運行を正確にするには、この記事の終章に書かれているように、少々遅れてもいいくらいの余裕を持った運行ダイヤにして、発車時刻を正確にすることだろう。だが、余裕をもたせすぎると運行効率が悪くなる。自家用車で30分のルートをバスだと2時間かかるというのでは誰もバスを使わないだろう。実際の運行ダイヤを決めるにあたっては実走行の記録を統計的に眺めるのが一番だろう。そして、それはルートに新しい交差点ができたといったことだけでなく、道端にあるコンビニが潰れたとか、外食チェーン店が開店したといったことの影響も受けるだろう。

 ただ、シリーズでお送りした新交通インフラが完成すれば、定時運行するバスというものが無くなるので、バスの遅延問題は存在しなくなる。

交通システムを支配する「カオス理論」について « WIRED.jp

2人のドライヴァーが、A地点からB地点までクルマを運転して行かなくてはならないとしよう。『Googleマップ』は、きっかり1時間で目的地に到達すると“予測”する。しかし、同じA地点から出発し、同じようなスピードで運転したにも拘わらず、B地点に到達するまでには両者の間にかなりの時間差が現れていたりする。
このような予測の誤差は、いったいどうして起こるものなのだろう? 偶然と言ってしまえばそれまでだが、「カオスに支配されているから」というのも答えのひとつだ。
とある区間において、信号に制限されるバスや車の運転が、「カオス理論」と呼ばれる決定論的法則に左右されることは長らく知られている。かつての自然科学の考え方は、物事の条件がわかれば未来の状態を「完全に予測」できるという、ニュートン力学的世界観をもっていた。
しかし、実際の測定値をもとに計算し、未来の現象を予測しようとしても、予測データと測定されたデータとでは全く合わなくなる。たとえ未来の現象が決定論的であっても、設定する初期値がほんのわずか違うだけでまたたく間に異なる展開をみせ、結果がまるで違うものになってしまうのだ。数学的に決定されてても、予測できない未来がある──これがニュートン力学的世界観を覆したカオス理論の真髄だ。
蝶が羽ばたくというほんの僅かな初期値の条件が、のちに遠いどこかで竜巻を起こすほどの違いをもたらすのか? この比喩は、カオスの影響が「バタフライ効果」と呼ばれるようになったゆえんである。冒頭の例を取ると、A地点での出発時、2人のドライヴァーがアクセルを踏むときの僅かなタイミングの違いが、時間と共に指数関数的な差になって現れるため、B地点での到着時刻が予測不可能になる。しかし、カオスとは決定論的法則なので、短時間内なら近似的な予測は可能だ。
カオス理論を取り入れた複雑な交通モデルは、実は既にいつくか存在する。しかし今回、交通状態を極力シンプルに考え、どんな要素がよりカオスに影響を受けるのかをシミュレーションにより追求したのが、南米コロンビアとチリの研究者たちだ。この結果は、バスやタクシーの予定時刻、また、Googleの自律走行車などへの応用へと役立てられると彼らは言う。
「コロンビアでは、バスはまず予定時刻には来ません。ですが、ドイツではきちんと予定時刻通りに現れるのです。この国々の違いを調べたとき、ヒントは各バス停でバス自体の“待ち時間”があるかどうかにありました」と、『WIRED』に話すのは、コロンビア・イバグエ大学の数学・自然科学科博士、ホルヘ・ヴィヤロボスだ。今回、物理ジャーナル誌『Chaos』で発表された論文の筆頭者である。

海外を旅した経験があれば、ドイツやスイスなどで、時間に正確な交通機関を快適に思う一方で、インドやトルコでは、時刻表があまりに曖昧なことに毒づいたことがあるかもしれない。大都市には大勢の人が集まり、人々の移動を支える交通機関は、ある意味、その土地の性格とも呼べる雰囲気をつくり出す。
「日本もドイツのように時間に正確ですよね、しかしコロンビアの都市では、予定時刻というものは遠い未来のコンセプトなんです」。ヴィヤロボスの研究は、各停留所のバスの予定時刻が全くデタラメとなってしまうコロンビアのシステムを疑問に思うことから始まったのだ。
ヴィヤロボスは、将来、都市部に現れるであろう自律走行バスを例にあげる。バスが一定区間を通過するにあたり、各停留所や信号では、ブレーキをかけて減速、または完全停車をしたり、その後アクセルを踏み込んで加速し、制限速度に到達して一定のスピードを保つといった動作が繰り返される。これらのコンディションのうち、どれがカオス的なのかを調べるため、彼はリアプノフ指数を用いて検証した。リアプノフ指数が正であれば、カオス系の特徴である初期値鋭敏性をもつことになり、そのシムテムにおける予測が非常に困難になるという。
彼らのシミュレーションの結果は少々直感に反するものだ。「カオスの影響が現れるのは、周りの交通に合わせるために、バスが各停留所での待ち時間を短縮するときです」と、ヴィヤロボス。
つまり、バスの利用区間内でかかる時間を短縮するため、乗客が乗り降りする時間をできるだけ削って、“理想的”な運行状態に近づけようとすると、カオスの影響を受けて各停車駅の予定時刻が予測不可能になってしまうというのだ。そしてそんなとき、リアプノフ指数はカオスの特徴である正の数字を示す。「逆を言うと、各停留所における待機時間を長くしたり、必ず信号で一定時間止まるようにすれば、カオスの影響を最小限にできるということです」
各バス停で待ち時間をつくる──ドイツのバスシステムはまさにこれを踏襲しているのだと、ヴィヤロボスは言う。ドイツでは、たとえバス停で乗り降りする乗客がいなくても、素通りしたりせずにきちんと止まって予定時刻になるまで待つ。一方、コロンビアのバスは、ドイツのように律儀に待つことをしないのだそうだ。
「我々の研究結果によると、到着時刻を予測可能にしたければ、一定区間内の移動時間が少々長くなろうと、バスを停留所で待たせるのは悪いアイデアではないということです」(ヴィヤロボス)
しかし、この研究が明らかにしたのは、やはりどんなにシンプルなシチュエーションでも、都市部を運転するならカオスの影響からは逃れられないということではないだろうか。今回は1台のバスが、信号やバス停のある一定区間を通るというシミュレーションだったが、研究者らは、バスの数を増やしたりそれらを相互作用させることで、また別の数学的法則が現れるかどうかを見極めたいとしている。
今度バスが予定時刻になっても現れなかったら(あるいはバスが早く来すぎてあなたが間に合わなかったとしたら)、怒りや焦りを覚えるよりも、さっさとカオスのせいにしてしまったほうが健全かもしれない。ある意味、バスの到着が早すぎたり遅すぎたりしてしまうのは、カオスに支配された自然現象なのだ。

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