パヴエまたはTour de France 2014 第5ステージに棲む悪魔


 2014 ツールを象徴するのが第5ステージだった。雨のパヴェでニーバリが他を大きく引き離しマイヨ・ジョーヌを着た。昨年優勝のフルームは雨の中二回の落車で怪我をしてリタイアしコンタドールは大きく後退した。

 フルームの落車はパヴェとは関係はないが、コンタドールは変速機に泥が絡まって変速がスムーズにできなくなっている間に遅れてしまった。他にも落車に告ぐ落車、パンク、機材トラブルが絶えないステージだった。このルートはパリ・ルーベという春に行われるレースの名物であるパヴェ(石畳)区間のある注目のルートだった。しかも雨。雨のパリ・ルーベは別名「北の地獄」と呼ばれる過酷なレースだ。

 上の写真がパヴェ。石と石の間にはタイヤが嵌り込むだけの間隔が不規則にある。しかも、雨で泥をかぶっていては見分けることは非常に難しい。パヴェの石の表面はアスファルトよりはるかに滑べりやすい。各チームは専用のフレーム・ホイール・タイヤを持ち込むだけでなく、個人の希望に応えて、変速ボタン(電動コンポの場合)を普段と異なる場所につけたりバーテープを二重に巻いたりする。

 因みに、パリ・ルーベの優勝トロフィーはパヴェの石を台座に載せたものだ。 


 こちらもある意味歴史的な意味で残っている。INDY500 mile が行われる Indianapolice race circit のゴール・スタートライン。サーキットが出来た時のレンガがそのまま残されているらしい。これはレースの行方を左右することはない(そもそも自転車でレースしない。しても困らないけど)。

TDFの3週目|How can you tell a grand tour is almost over? 3cups of coffee just to get thru breakfast.

 ストリーミングの調子が悪く、終盤でニーバリがアタックを掛けたあたりからの観戦になった。その時点でバルベルデは第二集団からも遅れ気味で辛そうだった。世代交代の波がバルベルデにも訪れたかと寂しく眺めた。しかし、朝、通勤途中の電車で▶ EN – Summary – Stage 18 (Pau > Hautacam) – Vidéo Dailymotionのビデオを見て勘違いだったことを知った。

2014-07-24_valvelde 彼は、山岳でニーバリとの差を縮めるためにチームメイト二人とアタックしたのだ。結果的にはニーバリグループに追いつかれ、アタックに消耗したバルベルデ(Alejandro Valverde @alejanvalverde)は2位争いの直接のライバルとの戦いに敗れたのではなく、ニーバリとの戦いに敗れたのだった。2位グループのライバルをマークして体力を温存していたら離されない可能性は高かったが彼はそれを選ばなかった。結果、総合の順位が2位から4位に下がったが恥じ入る必要はない。Nice fight Valverde!

サイクリングニュース : CYCLINGTIME.com
アレハンドロ・バルベルデ(モビスター) ステージ10位 総合4位
「良くない一日だったけど、最悪ではないよ。もう自分のペースで行くしかなかったね。そのリズムを掴むまでに少し時間がかかってしまったよ。でも向かい風はさすがにきつかったね。まだ総合表彰台は可能だよ。とにかく今とても疲れているんだ。完全に体がピークをすぎてしまった感じだよ。他の選手たちもそうだろうけど、結構体はもうリミットギリギリで、意地と根性で走ってるんだよね。」

 表題、How can you tell a grand tour is almost over? 3cups of coffee just to get thru breakfast. @peterstetinaは3週目のツールの厳しさを如実に物語った選手のツイート。コーヒーを3杯飲まないと目が覚めないまでに疲れが溜まっているのだ・・・

TDF2014 9stage ツールはこれから

 ゴール前20km近くが平坦だったので逃げ切れるとは思わなかったが、下り基調が幸いしてか個人で逃げたクイックステップのトニー・マルティンが優勝。自分はトニー・マルティンをクイックステップというカヴェンディッシュのステージ優勝量産のために作られたチームの平坦アシスト要員(それも相当に強力な)だと思っていたが、こんなに山岳を走れるとは。

 こういうステージでクライマーが逃げ切ることは珍しくない。このステージで予想外だったのは、マイヨジョーヌが入れ替わったことだ。終盤、一人の逃げに対して20名近い追走集団が形成され、2分半程度の差で追い上げた。集団は追走からさらに6分近く離されてゴール。そして、追走集団に総合の上位、といっても圏外と思われる4分差、にいた選手が入っていて、結果的に総合トップに立った。

 牽制しあってペースが上がらなかったGCライダー(チーム)のミスか。追走集団が多かったこととそれほど上位で無い選手だったために目が届かなかったのだろうか。個人TTでこのリードを守れるかどうかはわからないし、これまでで遅れていた選手がトップライダーのマークを受けて遅れずについていける可能性は低い。しかし、今年のジロのように、山岳で大逆転した選手が勢いを保ったままゴールに辿り着くこともあるので目が離せない。

 アルプスとピレネーでコンタドールがどう動くか・・・サッカーのワールドカップが終わって燃え尽きている場合ではない。ツールはこれからが本番。

ロードレースにおける「逃げ」

二人の逃げがスプリントチームの引きで吸収される。
二人の逃げがスプリントチームの引きで吸収される。
 ロードレースで特徴的なのは「逃げ」の存在だろう。集団の中にいるときの倍近く体力を使い疲弊し、集団に吸収される。

 集団は津波のように押し寄せる。右の写真はツール・ド・フランス2014 8ステージで、序盤から2人で逃げた選手がスプリントチームによってコントロールされた集団に飲み込まれる寸前。これから30秒後くらいに彼らは集団に飲み込まれ、多くの場合は集団に残ることもかなわず置いて行かれる。

 英語の実況では escape と呼ばれる場合と bunch と呼ばれる場合がある。escape はトップを走っているが bunch は小集団の意味で、トップを走っている場合は escape と同義だが小さな第二集団や第三集団が形成された場合には second bunch や third bunch になる。この場合、chase group とも呼ばれる。

 ロードレースは、みんな同じように自転車に乗っているので分かりにくいが、選手は異なる役割を担っている。アメリカンフットボールや野球ほど明確ではないが、分業という意味では同じくらいに異なる職能が求められる。さらに、チームはそれぞれの持ち駒で望める最高の結果を求めて戦略を練り戦う。そして、それはレースの状況によってめまぐるしく変わる。この駆け引きこそがロードレースだ。

 ロードレースの役割についてはいろんなサイトにあるが、一度自分なりにまとめてみたい。