スマート化された高級腕時計は「次世代に残せる時計」?

高級腕時計
残るのはこういう時計とコモディティ化するスマートウォッチ
 ならない。

 クオーツ・ショックを乗り越えた「高級腕時計」はフェティッシュとして金持ちの自己顕示欲を満たしたり、シャレオツさんのファッションセンスをひけらかすためにしか存在しない。機能なんてどうでもいいのだ。

 だが、腕時計は時計としての機能を持っているために、純粋な装飾品とみなされないというメリットが有る。機械式時計の時代には高級腕時計=正確という図式があったから、「装飾のために高級腕時計をしているのではない」と言えた。(クオーツ以降もその言い訳は通じた。が、電波時計(中身はクオーツ式の時計で電波を受信して勝手に補正するだけだが)の登場で完全にその図式は無くなった。)

 装飾品を身に着けることを良しとしない高年齢層の男性にとって腕時計は数少ない、身につけていて後ろめたくないフェティッシュだった。

 この「機能があるおかげで身に着けていて後ろめたくない」というのが重要だ。つまり、中身は数千円の電波時計に劣る程度の機能しかなくても、これが有るおかげで ROLEX を付けていることが正当化できるのだ。ホントは、フェティッシュとしての装飾品に自己投影して満足してるだけだとしてもだ。そのために、最低でも動いていなければならない。金縁でダイヤが散りばめられていても動いていない時計はできないのだ。

 だから、機能自体が陳腐化して動かなくなるスマートウォッチの機能は高級腕時計にとって邪魔なだけだ。

 ここまで書いて放置していたら象徴的な記事があった。「初代「Apple Watch EDITION」が最大約165万円引きの大セール!…買うべき?」。こんなん見たら、誰も Apple watch を財産として見做すことはないだろう。Apple はスマートウォッチはデジタルガジェットと割り切って、「高級腕時計」路線を捨てたのだろう。

スマート化された高級腕時計は、「次世代に残せる時計」になれるのか:スイスの高級ブランドのジレンマ|WIRED.jp

半年もすれば時代遅れになり、新機種が出るとすぐ買い替えられてしまうガジェット。一方で、たとえ正確に時を刻まなくとも長く使い続けられる高級腕時計。その間にある、高級ブランドがつくるスマートウォッチは、ガジェットなのか? それとも、「次世代に残せる時計」で有り続けるのか?

スイス製腕時計の市場は、このうえなく幸せな“異世界”であり続けてきた。この摩訶不思議な場所では、人々は万年カレンダーという複雑な機能の観想的な美しさを称え、実際には正確な時を刻まない機械仕掛けの時計に喜んで数百万円、数千万円出すのだった。ルネサンス時代に生まれたこの異世界は、ゆっくりと変化を遂げてきたが、現在でも伝統や歴史、不変性のすべてが重視されている。

しかし、その世界が壊れ始めた。腕時計業界が、急激な衰退をみせているのだ。きっかけは、時間を確認するだけならスマートフォンで十分間に合うという事実に人々が気づいたことだった。アップルは2016年、世界第2位の腕時計メーカーになったことを大々的に公表した。その一方で、スイス製腕時計の輸出は2016年前半、16.1パーセント減という過去最悪の急降下を記録している。

3月下旬にスイスで開催された国際展示会「バーゼルワールド2017」の会場では、どこを見てもスマートウォッチが目に入った。腕時計版の「CES」ともいえるこの展示会に足を踏み入れて最初に目につくのは、タグ・ホイヤーの「コネクテッド モジュラー45」だ。これはスタイリッシュなモジュール式スマートウォッチで、価格は1,700ドルである。

こうした新型の腕時計は、新世代の顧客たちを獲得できるビッグチャンスにもなれば、腕時計のあらゆる美点を台無しにする脅威にもなりうる。いずれにせよ、誰もがスマートウォッチを念頭に置いていることは間違いない。

そもそも、“スマートウォッチ”の定義は人によって異なる。たとえば、アップルやLGがつくっているようなタッチスクリーンが付いた大ぶりの腕時計型コンピューターが、“スマートウォッチ”だと考える人もいる。それらはスマートフォンの代わりとまではいかないが、プッシュ通知を受け取ったり、健康状態をトラッキングしたり、メールを送ったりといった多種多様な機能によって、スマートフォンの機能を補完する機能をもっている。

そうした意味の“スマートウォッチ”であれば、どのブランドのものを買っても問題ない。基本的な機能はみな同じだからだ。つくっている会社もおそらく同じで、巨大ライセンス企業となったフォッシルだろう。ただし価格だけは、ブランドや見た目、着け心地によって変わってくる。

一方で“スマートな時計”、つまり機能と見た目を兼ね備えたハイブリッド型も存在する。見た目は従来の腕時計と変わらないが、1日1回(あるいは年1年)の充電は不要だ。健康状態や睡眠データなども集めるし、大事な通知が届いたら振動で教えてくれる。何よりも、こうしたハイブリット型は時計本来の機能である「時刻を正確に刻む」ことができる。

近いうちに、こうしたハイブリッド型の腕時計は、フォッシル、ゲス、ヒューゴ・ボス、トリーバーチから発売されるだろう。インターネットにも接続できる手頃な価格の腕時計の登場も想像に難くない。腕時計に追加すべきパーツ、たとえばBluetoothモジュールなどは非常に小型化・省電力化して価格も安くなっているので、取り入れない理由がないのだ。

一方、こうした機能が追加されると、どうしても「腕時計とは何か」「その機能は何か」という疑問がわいてくる。パテック・フィリップやロレックス、ハリー・ウィンストンといった腕時計メーカーがつくってきたのは“次世代に残せる時計”であって、新しいモデルが携帯キャリアの店舗で売買されるような時計ではない。日用品ではなく家宝であり、技術というよりは芸術なのだ。

バーゼルワールドに出展している商品を紹介するときに、ブランドの担当者たちが説明したのは、素材やムーヴメント(時計内部で時を刻む機構)や歴史的なインスピレーションのことであって、Wi-Fiのスペックやプロセッサーの速さではなかった。ロレックスの腕時計は、時刻を正確に刻むのが苦手なことで有名だが、そんな根本的な欠点があってもブランド性は少しも損なわれない。時刻を刻むことなど、本当は重要ではないからだ。

だからこそ気になるのは、ロレックスのような腕時計メーカーがスマートウォッチをつくれるかではなく、ロレックスのスマートウォッチは何を意味するかということだ。Android Wear搭載スマートウォッチがどれも似たり寄ったりで、6カ月後には時代遅れになってしまう現状において、永遠に使われ続けるものをつくるにはどうしたらいいのだろうか。どんな物も「新型が登場するまで」しか存在できない世界において、時を超える不変性は重要だと言えるのだろうか。

それでも、この新しい市場に意気揚々と飛び込む企業もある。そのひとつであるマイケル・コースは、販売する男性用腕時計のすべてに、何らかのネット接続の方法を搭載すると言っている。だがほかの企業、特に真の意味での高級ブランドにとっては、過去と未来、伝統と革新のちょうどいいバランスを見つけることが、いまだ課題となっている。

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