「信者の脳内で起こっていること」または Mr.X の孤独

img_426269_9878415_2 社会生活に影響を及ぼさなければどんな宗教も許されると思っている。その信仰を押し付けてこなければ、仏、キリスト、アッラー、Apple、Google、BMW・・・阿呆神、どれもオールOKだ。一番問題になるのは他を否定するケースだ。ネット上の言い争いなどはどうでもいいが、戦争を引き起こすに至ると無関係な人間を巻き込むからだ。

 しかし、人間の脳は無意識のうちに信仰に近い状態になろうと努力しているように思われる。動物から人間へと進化する過程で獲得した社会性と密接に関わっているのではないだろうか。自意識や理性を発達させる前から人類は、サル山のように、集団で生活していただろう。狩猟生活をしていた時代には集団でいられることは安心につながっただろう。外敵からの攻撃から身を守り、食物をとるための集団戦あるいは他の集団との交戦においても個人ではままならなかっただろうし、集団に馴染めないような個体は子孫を残せなかっただろうから淘汰されたはずだ。今でも、人類は生得的にこの感覚を持っている。家族や友人に囲まれた時の安心感の源はこれだろう。そして、集団にいて安心することは問題行動ではない。

 人類はこの感覚の対象を他に求めるようになった。それが宗教や国家だろう。その後、社会が変わり、宗教が求心力を失った。高速交通手段と情報伝達技術のお陰で国境も曖昧だ。(その経緯については長くなるので書かない)

 今は、物理的な集団ではなく、興味の対象による集団形成が行われる。

 なお、この集団帰属意識への強い憧れ、集団に入れない時の心細さについては、ポードゲームおっぱい第17回 「スコットランドヤード」をお聴きいただきたい。

Apple、SONY…。ブランドの「信者」の脳内で起こっていること : ライフハッカー[日本版]
 認めたくないものですが、誰もが何かに熱狂的な「信者」になるポテンシャルを持っています。信者とは、自分の好きなもの(携帯端末、政治家、都市、ブラウザ、OS、ゲーム端末…)を擁護するあまり、ほかのものを全否定してしまう人たちを指します。新型iPhoneを実際に手に取る前から絶賛する人も、「PlayStation 4はXbox Oneよりすごい」と発売前から熱く語る人も、みんな決まって、対立する陣営の一方にばかり肩入れします。

 それだけでも褒められる態度ではないですが、この盲信はもっと厄介な問題を引き起こします。特定のブランドに固執してしまうと、どれを買うか決める時に合理的な判断ができなくなってしまうのです。結果「好きなメーカーが作っているから」というだけの理由で、ゴミみたいな製品に無駄にお金をつぎ込んでしまう恐れが出てきます。

 今回は多くの人が簡単に信者化しまう理由と、そうならないためにできることを紹介しましょう。

社会的アイデンティティ理論:帰属意識が自己認識を作る
 人が何かの信者になるのには、ありとあらゆる要因が関わっていますが、そもそものきっかけを説明してくれるのが「社会的アイデンティティ理論」です。

 これは、「人の自己認識は、自分が帰属意識を持つ社会的集団をもとに形成される」という考え方。何らかの集団に所属していると、その集団のメンバーに共感するようになり、ついつい優遇してしまいます。こうした行為はその性質上、「私たち」と(私たち以外の)「彼ら」を区別することにつながります(それでなくとも、人の脳はもともと、この線引きを設けたがるものです)。

 人はさまざまな理由で、自分を何らかの集団の一員として位置づけたがります。持ち物を理由にするのも珍しくありません。米科学誌「The Psychologist」の記事では、ものとの結びつきが、人を神経系から変えてしまう可能性が指摘されています。結びつきが集団への帰属意識に転換されるわけです。

「ものが自己認識の中に取り込まれる」というのは、神経系においては単なる比喩ではありません。Kyungmi Kim氏とMarcia Johnson氏の2010年の論文では、被験者がさまざまな品物を2つの容器に振り分ける課題を行っている際の、脳の働きをスキャンしています。

容器の一方には「私の」と書いてあり、被験者は振り分けた品物が自分の手に入ることを想像します。もう一方の容器には他人の名前が書いてあります。

自分が「獲得」した品物を見る時には、他人に振り分けられた品物を見た場合に比べて、内側前頭前皮質の動きが活発になるのが確認されました。この領域は、被験者にさまざまな形容詞を示して、それぞれ自分の性格にどの程度当てはまるかを評価してもらった際にも活性化しました。

「自分のことを考えるのに関わっているとされる脳の領域は、私たちが外部のモノと自分自身とを、所有関係によって結びつける際にも関わってくるようだ」とKim氏は言います。(中略)

特定のモノやブランド品を所有することは、「ある社会集団の一員である」ことを、周囲と自分自身に対して知らせる役割を果たします。ちょうど制服と同じです。Appleブランドの成功の要因のひとつは、消費者の側に「私は、クールなイメージのある消費者層の一員です」とアピールしたい欲望があったからなのです。

この社会的アイデンティティ理論は、信者心理とどう関係しているのでしょうか。何らかの集団に属している人は、その集団をあらゆる手段で擁護しようとします。心理学者のJamie Madigan氏は、ゲーム端末のシェア争いを例にとって説明しています。

「あなたが何者であるか」「それを他者にどう伝えるか」はある程度、あなたがどの集団に属しているかで決まります。さて、私たちは誰でも、上位の集団に属したいですよね?

物事はすべて相対的なので、ある集団が上位にあるためには比較対象として下位のグループがなくてはいけません。そのため、一部の人たちは「私はXboxのファンだ」と規定するだけでは飽き足らず自分の地位を上げるためにPlayStationユーザーを攻撃するのです。

この傾向は人間に自然に備わったものだと研究チームは結論しており、そのことを裏づけるデータはほかにもたくさんあります。

私たちは、何かきっかけさえあれば勇んでこの行為を始めてしまいます。

このような他者攻撃は、いつも意識的に選択して行われるわけではありません。けれども、ひとたび何かに肩入れしてしまうと、「Windows対Mac」、「Xbox対PlayStation」のように対立する陣営を設定しがち。そうなったら、もう信者への道を歩み始めているのです。

サンクコストの誤り:もったいなくて乗り換えられない
何かの信者になってしまう要因としてもうひとつ考えられるのは、経済学の用語で「サンクコスト(埋没費用)の誤り」と言われるものです。

これは買い物の失敗を取り返そうとして、さらにお金(と時間)を費やしてしまうことを指します。ライフハッカーでは以前の記事でも、ガジェットの買い替えや家計の話題に絡めて、この問題を取り上げてきました。人が何かの信者になってしまうのにも、サンクコストの誤りが関わっているようなのです。

サンクコストのせいで信者になってしまう理由は簡単です。乗り換えにかかるコストの高さにゲンナリするからです。

PlayStation 3からXboxに乗り換えれば、すでに持っているたくさんのゲームソフトが無駄になります。Android端末からiPhoneに切り替えれば、これまでに買ったアプリを使い続けられないし、操作に慣れるまでに費やした時間も無駄になります。

こういうわけで、あなたの脳は今持っている端末を擁護しようとします。それであなたは信者への道を歩んでしまうのです。

選択支持バイアス:過去の購買決定を正当化したい
信者化の最大の決め手となるのは「選択支持バイアス」です。これは、過去の選択を振り返った時に、好意的な評価をしがちな傾向を指します。本質的にはこれこそが、自分の買った商品をまともに分析もせずに擁護してしまう要因です。

ある製品への支持を正当化しようとするあまり、その製品にまつわる思い出を良いほうに補正してしまうことも珍しくありません。ブログメディア「You Are Not So Smart」では、選択支持バイアスの仕組みを説明するこんな例を挙げています。

たとえばテレビを新しく買う時、選択肢はいくつもあります。どれを買うか決める前の段階では、出回っている機種についてあらゆる点から比較対照します。

「SamusungかSONYか」「プラズマか液晶か」「1080pか1080iか」…。検討項目の多さにウンザリしながらどちらが良いのかを考え、そうこうするうちにやっと、どれかひとつに心を定めます。そして、決めたあとでこの買い物を振り返る際には、自分の買ったテレビは手に入る中で最高の選択肢だったと信じ込むことで、自分の行為を正当化します。

こうした行為は、買い物のあとで感じがちな後悔の念や疑念を振り払うために必要なことですが、ひとつ欠点があります。

こうして自分の選択を正当化しだすと、聞いてくれそうな人を見つけ次第、声高にその話をするようになり、自分を省みることがなくなってしまうのです。要するに、何かを選択したら、その選択について自分に言い訳しなくてはいけなくなり、往々にしてその言い訳が、言葉の端々ににじみ出てくるのです。

イタい信者にならないためにできること
残念ながら信者心理の大部分は人間の基本的な性質に根ざしているので、これを克服しようにも、たいした手だてはありません。

さまざまなバイアス(考えの偏り)の場合と同じで、大事なのは「誰だって信者になる可能性がある」という自覚です。

信者になってしまうと、新しい選択肢が出現しても目を背け、よく考えもせずに特定のブランドや製品を支持するようになります。特にネット上では邪悪な面が出やすいこともあり、あっという間に、対立陣営に向けて口汚く極端なののしりの言葉を書き込むのが日常になってしまいます。

根本的な治療法はありませんが、先ほどの「You Are Not So Smart」の記事では、ネットの書き込みにカチンと来たら、ひと呼吸置くよう勧めています。

自分の好きなものが相手の勧めるものよりどれほど優れているか、お決まりの言葉を怒りに任せて長々と書き込みたくなったら、ひと呼吸置きましょう。

あなたがそれを好きな理由は合理的ではないし、相手の場合も同じなのだと頭に置いておきましょう。宗旨替えを迫ったところで、何の得にもなりません。

もうひとつ。問題をごく初期の段階で食い止めてブランドロイヤリティの呪縛から自由になるには、「ブランドへの固執は悪いこと」「買い替えは必須ではない」と意識してみる方法もあります。

内なる信者心理を抑え込むには努力と自省が必要ですが、長い目で見ればその甲斐はあると思いますよ!

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