ただしアメリカに限る:Amazon紙版書籍購入者に対して無料(ないし安価)での電子本提供プログラムを開始予定

 「電子書籍の販売がコンテンツの利用権の販売である」という Amazon の主張と整合している。紙本を買ったということは、物理メディアの所有権と書かれたコンテンツを読む権利の両方を買ったということだ。だから、追加的に電子版を買う場合には手数料しか発生しないのは納得感が高い。紙本の所有権とコンテンツの利用権との紐付けるため、Amazon で紙本を購入した人にのみ適用というのも納得できる。

 本来、この扱いは逆もできることが望ましい。つまり、電子書籍を買ったユーザは紙本をコンテンツ利用権分減じた価格で購入できれば完璧だ。実際にやっている例はある。TidBITS は pdf 版の書籍を発行しているが、pdf 版のユーザは紙版を安く買えるし、紙版を買ったユーザはpdf版は無料でダウンロードできる。また、pdf 版はバージョンアップしたときに新板にアップデートされる。

 Amazon のような立場ではこれは難しいかもしれない。TidBITS 自身が出版社で著作権者で自ら電子書籍ダウンロード販売を行っているからできる離れ業だろうから。

 日本では、著作権を振り回すくせに、ユーザが買ったコンテンツ利用権を使用することに制限を加えて平気な勘違いが多い。紙本の所有権はユーザにある。そして、コンテンツについては著作権者は著作権を持ちユーザは制限された利用権を持つ。だから、ユーザが所有権を持つ媒体を切り刻もうが著作権者に文句を言う根拠はない。ものとしての紙本を切り刻んで、スキャンし自分の所有の端末で読むことはユーザの権利だ。ユーザはコンテンツを利用する権利を持っているのだから。

 著作権者が集まって自炊サービス業者に圧力をかけるのはお門違いも甚だしい。デジタル化したコンテンツを利用権を濫用して配付することがあれば、その時にはコンテンツ利用権の逸脱として訴えることができる。それは、自炊したユーザだろうが自炊業者だろうが関係なくだ。そういう事実がないのにスキャンしているからと業者を訴えるのはアホとしかいいようがない。

 話がそれるが、紙本を買って自炊業者に依頼するようなのは著作権者にとって上得意だ。自分で本を買って読むのだから。その時点でその本の対価を払っているのに、さらにデジタイズするためだけに対価を支払うくらいのファンだ。しかも、自炊のために切った本は物理的な媒体としての価値を失うので古本の流通ルートにも乗らない。切らずに自炊して古本屋に売ったら満足なのだろうか。

 「複製の自由について、購入者自身でない業者が代行するのは違法」という理屈を書いてある物もあったが、業務委託を受ける場合には委託者が一々所有権を持つ必要はないだろう。

 自炊を防ぐには、電子書籍版を出すことしかない。電子版があればわざわざ自炊なんかしない。Amazon のように安く電子書籍を売れば、紙本を買って自炊する人間はいない。

 ただし、コンテンツ利用権と物理メディア所有権が不明確なままで、しかも、紙本の価格統制が法律的に認められているので、この対応はできない。

Amazon、紙版書籍購入者に対して無料(ないし安価)での電子本提供プログラムを開始予定 | TechCrunch Japan
AmazonがKindle MatchBookという新たなサービスについてのアナウンスを行った。Amazonで紙の書籍を購入した利用者に対し、その本のデジタル版を無料ないし2ドル99セントの価格で提供するというものだ。価格は書籍によって決まることになる。本プログラムの対象となるのは、Amazonが書籍販売を開始した1995年から、これまでに購入した本ということなのだそうだ。

このKindle MatchBookプログラムは10月に開始される予定だ。開始までに、対象となる書籍を1万冊以上用意するとのこと。対象となる書籍は徐々に増やしていきたい考えだ。プログラムに参加するか否かは出版社側の判断であり、Kindle版のダウンロード時の価格の選択(無料、99セント、1ドル99セント、2ドル99セント)も出版社側で行う。

「遠い昔のクリントン時代、CompuServeアカウントでログインして、AmazonからMen Are from Mars, Women Are from Venusといった書籍を購入して頂いた方も、(18年たった今になって)Kindle版を非常に安価にダウンロードしてお楽しみいただけるようになるわけです」と、Kindle Content部門のVice PresidentであるRuss Grandinettiが、なかなかユニークな調子でプレスリリースの中で述べている。

ちなみに、メジャーな出版社も、あるいはKindle Direct Publishingで出版している個人であっても、サービス開始時に作品を掲載するための登録を行うことができるようになっている。このサービスは、印刷された本に加えて電子本も入手できる読者にとっては当然メリットがあるものだ。しかしそれだけでなく、出版社側にとっても、新たな販売機会を得るチャンスともなる。18年も前に書籍を購入した利用者に対し、紙版に加えて電子版の購入を促すことができるようになるわけだ。

読者にとっては、電子本の価格は無料であるのがベストだろう(既に持っている本を、さらにお金を出して買うということに躊躇いを感じる人もいるだろう)。しかし電子版の便利さを感じて、たとえ有料であっても購入しようとする人もいるはずだ。個人的には、過去においてもっとAmazonを使って購入しておけばよかったと後悔している。今後は、紙の本が欲しくなったらきっとAmazonを第一候補に考えることだろう。もちろん、そうした客が増えるようにというのが、Amazonの狙いであるわけだ。

(訳注:本稿はアメリカTechCrunchの記事であり、日本に適用される予定があるのかどうかについては確認していません)

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