地上波デジタル放送:分かりきってた事

地上デジタル、急がれる「ピュアハイビジョン」化

 プラズマや液晶の薄型デジタルテレビが、この夏のボーナス商戦でも主役を演じて
いる。ただ、せっかくのテレビを買ったのに、売り物のハイビジョン放送番組が少な
いことがここにきてデジタル化のデッドロックになりそうな気配だ。【西  正】

■■ケーブルテレビ局に寄せられる苦情

 2003年12月の地上デジタル放送開始後、半年を経過し地上デジタル放送が見られる
薄型のデジタルテレビが好調な売れゆきを示していたこともあって、地上デジタル放
送に関心を持っている世帯もそれなりに広がりを見せ始めている。

 地上波デジタル放送の開始当初は、開始された三大広域圏のうち、中部、近畿につ
いては電波による直接受信が可能な世帯も多かったのだが、関東地方ではアナログ周
波数変更対策が未済である地域が多く、電波で受信できた世帯は数万世帯でしかなか
った。そこで、関東地方で特に顕著な動きとして目立ったのが、ケーブルテレビ局に
新たに加入して、ケーブルテレビ経由で地上デジタル放送を見ようということであっ
た。

 そのため、開始時の2003年12月には、新規加入者が過去最高を記録したケーブルテ
レビ局も多かったという。地上デジタル放送の開始は、明らかにケーブルテレビ営業
にとっての追い風となった。

 しかし、実際に視聴者が放送を見始め、それなりに慣れてきたところで、一転して
苦情が局に寄せられるケースが多くなってきた。その多くは、目玉商品であるはずの
ハイビジョン放送が、薄型大画面のサイズである16:9になっておらず、既存の4:3の
テレビ画面に合わせて制作したものをアップコンバートしただけのものであったこと
から、放送画面の外の部分が真っ黒になってしまうというものだ。

 高いお金を出して新型テレビを買ったのに、さらには、デジタル放送を見るために
ケーブルテレビにまで加入したのに、どうして見づらい映像を見せられなければなら
ないのか、とのクレームの声が大きくなっていったのである。そうしたことはクレー
ムだけでは済まずの大半はケーブルテレビ局に寄せられることになったばかりか、解
約理由に発展してしまうケースも見られることになった。ほんの1、2ヶ月の間にまさ
に天国と地獄のような異なる様相を呈することになったのである。

 もちろん、ケーブルテレビ局側に責任があるわけではないのだが、地上デジタル放
送を新規加入者増の追い風としたばっかりに、クレーム対応については放送局に向け
てくれとも言い難い事情があったのであろう。

 そうしたハイビジョン番組が多いことから、16:9のテレビ画面に合わせて作られて
いるものは、「ピュアハイビジョン」作品と呼ばれて区別されている。視聴者からす
れば、ピュアが付いたり付かなかったりということは理解に苦しむところだが、地上
デジタル放送の視聴者が限られている現状からすると、地上波局の予算との兼ね合い
から、2種類のハイビジョン番組があることは仕方のないことなのかもしれない。

 とは言え、すでにケーブルテレビ局に向けてクレームが出ていることを考えれば、
地上波局としても真摯に受け止める必要があるのではないか。BSデジタル放送の開始
時もそうであったが、デジタルサービスならではのコンテンツが不十分であるという
ことになると、視聴者側の関心が急速に薄れていってしまうことになりかねない。

■■デジタル化の完了にも影響

 地上デジタル放送が始まったばかりとは言え、予算が限られていることを理由とし
て、相変わらず4:3のテレビ画面に合わせたハイビジョン番組を放送し続けていれば
、視聴者のデジタルシフトはなかなか進まないということになるだろう。現在のとこ
ろは予算上の余裕があると考えられる東京局、名古屋局、大阪局が放送しているが、
強力な局ですらそうした状況であるとすると、2006年までにデジタル放送を始めるこ
とになっているローカル局にとってはさらに厳しい対応を強いられるという形になっ
てしまう。

 ピュアハイビジョン番組の比率を高めようとしても、海外からの映像素材を使わな
ければならない場合などには対応し切れないことは当然である。それだけに国内制作
の番組についてはハイビジョン対応がなされることが不可欠の要請となってくる。単
純に広告予算との兼ね合いだけでピュアハイビジョン放送が行えないと言い始めれば
、視聴者側のテレビ買い替えのスピードも鈍化してくることになるだろう。

 三大広域圏から始められた理由も、そこに立地する地上波局の経営体力が見込まれ
てのことである。ただ、ローカル局の場合には、そもそものデジタル化投資すら、局
の存亡の危機につながりかねないことが指摘されている。そうした局に、デジタル放
送開始早々からピュアハイビジョン番組を揃えるように求めることには無理があるの
かもしれない。

 地上デジタル放送の開始により、放送の総デジタル化を迎えた今、地上波局にとっ
ても厳しい経営を強いられるサイマル放送を行う期間を短縮し、2011年に予定通りア
ナログ放送を終了させるためには、ピュアハイビジョン番組の放送比率を高めていく
ことは急務であろう。

■■ローカル局統合の必然性

 また、三大広域圏の局ですら対応し切れていないピュアハイビジョン化を、体力の
ないローカル局に求めることには無理があるという妥協がなされてしまうと、全国レ
ベルでのデジタル化の完了を予定通りの2011年になしとげることは絶望的になりかね
ない。

 マスメディア集中排除原則の緩和により、ローカル局の統合が可能になろうとして
いるが、経営の効率化という見地に加えて、デジタル化の推進力の強化という見地か
らも、体力の強化策としてローカル局の統合の必然性が明らかになってくるように思
われる。ピュアハイビジョン化を進めることは簡単なことであるとは思わないが、そ
れを遅らせれば遅らせるほど、地上波局の体力を磨耗していってしまうことも併せて
考慮に入れられるべきであろう。

 まあ、予想通りだ。

 しかし、「べきであろう」と偉そうに書いているが、マスコミにも責任の一端はある。毎日インタラクティブの記事でも、「今買っておいて損はないでしょう」といった電気屋のコメントを載せていた。

 なお、本文の5段落におかしな文章があるが、原文そのまま。 

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