もやもやすることあるいはスポーツ観戦

 ポッドキャストで「ラッシュ」と「疑惑のチャンピオン」「茄子アンダルシアの夏」について語っているのを聴いた(他にもたくさん取り上げていたが)てもやもやした。何がこうさせるのか整理してみたい。

 F1についても自転車ロードレースについても、話している人は昔からファンだったわけではなく、映画を観て、周辺情報を wikipedia で拾っただけのように感じた。

「ラッシュ」

 映画は見ていないので映画については知らない。自分の年齢(55)では、ニキ・ラウダとジェーム・ハントは伝説の人でしか無かったから、「当時はこんな感じで観てた」とも言えない。もやもやしたのは、「ラッシュ」について語る時に、「F1はセナの死亡事故以降、安全対策を強化した結果下火になってきた」という言葉だ。

 第一にF1人気が下火になったのは日本だけの現象ではないか。F1というカテゴリーのレースが世界中で下火になっているというのは共通認識なんだろうか?中等や中国、韓国など新しい開催国を開拓することでF1ビジネスは膨張を続けているのではないか。逆に考えれば、これまで開催していなかったところに進出しないと本場のヨーロッパだけでは人気が落ちていることの証拠かもしれないが・・・どちらかは分からない。

 第二にそのタイミングだが、セナの事故以前から日本でのF1人気は下降傾向に有ったと感じていた。フジテレビのバブル報道が飽きられたのではないか。

 第三に、安全対策によるレギュレーション変更は以前から繰り返されていて、その度に一時的に平均速度は下げられてきていた。日本でF1がバブルになる前にもフラットボトム化、ターボ規制、燃料使用量規制、ウィング面積規制、生存エリア確保、クラッシャブルストラクチャー装備など多くの対策が打たれていた。安全強化によって見る人が減ったとは思えない。

 ただ、命を賭けた戦いを楽しむという観客の心理についての考察は興味深い。これは、古代のコロッセオの剣闘ショーやサーカスやボクシングなどに熱狂する心理と通じるものが有るだろう。

 自分はフジテレビが放映する前からモータースポーツファンだったし今でも基本は変わっていない。ただ、鈴鹿サーキットに出かけるほどの情熱は失った。自分の場合は、フジテレビのF1バブル報道によって冷めたといっていい。ドライバーをアイドル芸能人のように扱ったり、レースの見どころを死と隣り合わせのクラッシュであるかのように盛り上げるやり方にうんざりした。フジテレビではF1を「地上最速」ともてはやしていたが大嘘だ。最高速はC1やINDYの方が速いし、加速ではドラッグの圧勝だ。

 自分の中でF1への興味が失われたのは、ショーを面白くするためだけのレギュレーション変更が繰り返されたことだ。安全の旗印の基コンストラクターの出る杭を打つ変更が続いた。公道を走る自動車の技術をF1にフィードバックする時代になったのだ。これが一番の理由だ。

 「モータースポーツは元々退屈なショー」としかいいようがない。それを楽しむためにはリテラシーが必要だ。それを持たない人間に、有りもしない面白さを有るかのように見せかけようとして、メッキが剥がれただけだろう。

疑惑のチャンピオン

 番組での言及内容についてではなく、取り扱われた内容についてもやもやしているというのが正しい。

 ランス・アームストロングがドーピングを認めた時には驚きはなかった。というより「やっぱりそうだったか」という気持ちで、卑怯者と罵る気持ちはわかなかった。

 映画を観ていないので、ランス・アームストロングの性格や人間性について正しく描かれているか知らない。そもそも自分がランス・アームストロングの人間性を知らないから、観たところで正しいかどうか判断できない。

 もやもやするのはそこではない。ランス・アームストロングがドーピングをしたことは本人も認めている。もやもやするのは「ドーピングによって掴んだ栄光だった」と遡って批判することだ。あの時代、クリーンな選手がどれだけいたのか?遡ってすべての検体を調査した上で、ランス・アームストロングだけが陽性ならば批判は妥当だが、特定の選手だけ遡り、それ以外は不問に付すというのは納得できない。

 マルコ・パンターニがドーピングしていなかったと思っている人は少ないだろう(レース直前に急死)。が、彼は英雄のままだ。ツール・ド・フランスの最中にドーピングで失格し所属チームがレース撤退に追い込まれたヴィノクロフに至っては、2年後レースに復帰しロンドンオリンピックの金メダルを獲った。しかも、その後チームの監督に収まって未だにレース界の重鎮だ。

 この違いがおかしい。

 もちろん、他の全員が陽性だったからといってランス・アームストロングの名誉挽回しろとは思わない。遡って検体を調査し、陽性だった選手は全員が失格。レース記録抹消。そして、UCIとASOの当時の責任者やチーム関係者も含め全員永久追放になればスッキリする。

 他の競技でもそうだ。陸上競技で匿名で過去の検体を検査したらメダルの多くが剥奪対象という報道が有った。ランス・アームストロングは失格で記録抹消で永久追放されたのに、匿名のメダリストは今もメダリストのままだ。

 WADA は何をやってるん?

茄子 アンダルシアの夏

 「リアル」というのに、少し引っかかった。確かに、弱ペダとかよりはずっとリアルに近いと思うが、単独で逃げた選手がスプリンターと競り合って勝つというのは弱ペダレベルのあり得なさだ。そんな超人的パフォーマンスにしなくても、数十秒差を保ってのゴールでも十分に興奮できるのに。

 ゴール直前で集団に飲み込まれて50位くらいでゴールしても良かったくらいだ。それでも、あそこまで一人で逃げた選手は十分賞賛される。

 2017/5/9 ジロ・デ・イタリア第4ステージは山岳ステージで逃げた選手が逃げ切って優勝した(マイナーなチームの9番ゼッケン)。追走と20秒、集団とは30秒差でのゴールだった。最大で6分あった差がゴール地点でここまで追い上げられる。

 見えない敵(追走との差は無線やバイクによる掲示で知ってはいるが)からの追い上げを感じながらの逃げ。集団ではGC候補たちの牽制(まだ序盤なので体力は温存したい)、アタッカーと集団との争い(優勝候補の一人、アルーが逃げた時集団のペースを上げて潰したのはライバルのクィンターナをリーダーとするモビスターのアシストだった)、勝利を目指すアタッカーの飛び出しなど面白さが詰まったレースだった。

 あり得ない設定での超人的活躍など必要はない。

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