日銀の補完措置:「苦しい台所」や「手詰まり感」を象徴-市場関係者

 強がり発言だけではもう誰も動かない・・・

日銀の補完措置:「苦しい台所」や「手詰まり感」を象徴-市場関係者

(ブルームバーグ):日本銀行が打ち出した量的・質的金融緩和の補完措置について、市場関係者の間からは「苦しい台所を反映している」、「手詰まり感の表れ」といった声が上がっている。
第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストはリポートで今回の措置について「分かりにくい」と指摘する。金融市場の反応は発表直後こそ急激な円安・株価上昇となったが、時間が経つと効果に対する懐疑的な見方から円高・株安に転じた。こうした市場の反応について、熊野氏は「日銀は市場心理が持っている恐ろしさをあらためて思い知ったに違いない」という。

日銀は18日の金融政策決定会合で政策方針の現状維持を賛成多数で決定、同時に補完措置として長期国債買い入れの平均残存期間を拡大することに加え、指数連動型上場投資信託(ETF)の買い入れについて新たに年間3000億円の枠の新設、不動産投資信託(J-REIT)の買い入れ限度枠の拡大を決めた。
追加緩和もどき
東海東京調査センターの武藤弘明チーフエコノミストもリポートで「日銀が『追加緩和もどき』の措置を導入したことで、ある種のサプライズを狙ったとすれば、それは逆効果になった可能性が高い。マイナーな施策を総花的に打つことで、日銀はもはやマネタリーベースを大きく増やすような腰の入った追加緩和はできないのではないかという印象を与えてしまったかもしれない」という。そしてこれは「日銀の苦しい台所事情を反映している」とみる。
大和証券の野口麻衣子シニアエコノミストも「現行オペレーションの持続可能性を高める効果が期待できる一方、実質的な意味での緩和強化策ではなく、物価安定目標の早期実現に資するものではない」と指摘。その一方で、「量的な面での緩和拡大余地が乏しいことを浮き彫りにした公算が大きいだろう」と指摘する。
過去にも同様の例
日銀は過去にも何度か追加緩和なのかどうなのかあいまいな策を打ち出したことがある。2003年3月には、日本郵政公社の発足を理由として日銀当座預金残高目標を「15-20兆円」から「17-22兆円」に拡大。2009年3月には、長期国債の買い入れ額を月1.4兆円から1.8兆円に拡大した。
いずれも「追加緩和」という位置付はされなかったが、前者は速水優総裁の退任直前、後者は白川方明総裁の下でのリーマンショック対応で、手詰まり感が強まっていた時期だった。
BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストはリポートで、今回の措置も「追加措置が大規模な量の拡大を伴わなかったことで、むしろ、政策の手詰まり感が否めない」という。
必要なら「当然思い切ったこと」
黒田東彦総裁は会合後の会見で、異次元金融緩和の補完策導入を決定したことについて、技術的な措置であり「若干分かりにくい」と認めた上で、下振れリスクが顕現化して追加緩和をしなければならない時は「当然思い切ったことをやる必要がある」と述べた。
河野氏は「期待への働きかけを重視する黒田総裁は、金融政策に限界はなく、必要があれば躊躇(ちゅうちょ)なく政策調整をするとの発言を続けると見られるが、日銀が現実的にとりうる政策余地はやはり相当に狭まっている」とみる。
シティグループ証券の村嶋帰一チーフエコノミストもリポートで、「今回の諸措置を今後の本格的緩和措置への『つなぎ措置』とみるか、それとも政策に手詰まり感が出る中での『精一杯の措置』とみるのかが重要」とした上で、「後者の可能性が高い」と指摘。「少なくとも来年前半中、おそらくは来年秋ごろまでは追加緩和が打ち出される可能性は極めて低くなった」という。
額面通り受け取る向きも緩和予想先送り
黒田総裁は会見で、2013年4月の量的・質的緩和について「戦力の逐次投入はせず、思い切った対応をして、強いコミットメントをするということで始めた」と指摘。昨年10月の追加緩和も「戦力の逐次投入はせず、大規模な量的・質的緩和の拡大を行った」と述べた。それに対して今回の措置は「いわゆる追加緩和」ではなく、「政策調整が必要と判断すれば迅速に対応可能にする措置だ」と説明した。
こうした発言を額面通り受け止める向きもある。三井住友銀行の西岡純子チーフエコノミストはリポートで、今回の措置について「現行の資産買い入れの拡大も含めて、量的・質的金融緩和強化を必要に応じて機動的に強化できる素地が整ったと受け止めるべきだ」という。
しかし、その西岡氏もこの日の措置を受けて、来年1月の追加緩和予想を先送りした。「日銀は今回提示した策の改正と実務への整備、市場の流動性の精査に移ることから、ひとまず1月の追加緩和の可能性は低くなった」と指摘。その上で、「16年度後半に2%物価目標を達成するとの見通しの実現に向け、来年4月前後に追加緩和」に踏み切るとみている。

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