世界レベルのポンポコ仮面「困っているならば、我が輩の手を摑むがいい」

 貧困に苦しむ地に救いの手を差し伸べようというプロジェクトへの批判とそれに対するプロジェクトの返答で読み応えが有る。どちらが正しいのかは分からない。何年か後にプロジェクトが拡大存続しているか立ち消えになっているかで分かることになるだろう。その時のためにクリップしておきたい。

 しかし、胸熱なのは、両者とも対立した意見を述べているが、両者の目的や希望は一致している。どちらもが目指すゴールは一緒で、その点では完全に一致している。そして、ふたりとも、決して自分の利益を優先してはいない(プロジェクトの成功が自分の成功体験につながってはいるだろうが)。少なくとも、ムネオハウスを作るようなクズや海外支援に寄生して利益をあげようとする下衆な商社とは全く違う。

Millennium Villages Project

 下に両者の記事を引用する。両方読んで欲しい。

サックス氏の貧困撲滅策が失敗した理由 | グローバルアイ | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト
ジェフリー・サックス氏は高い知性、情熱、説得力を持ち、自らの才能を注いで世界の最貧困層のために声を上げている。

米『ヴァニティ・フェア』誌記者のニナ・ムンク氏は、著書『The Idealist』で、サックス氏が率いる「ミレニアム・ビレッジ・プロジェクト」を微妙なニュアンスで描写している。同プロジェクトは、的を絞った大規模援助により、アフリカの村々の貧困撲滅の可能性を示すことを目的とした実証プロジェクトだ。ムンク氏は同著のための調査に6年の歳月をかけ、2カ所のビレッジで長期間生活した。彼女はサックス氏のプロジェクトの重要性を認めている。

ただ、同著によると、一部のミレニアム・ビレッジでは、住民の健康状態や収入に改善が見られるが、ムンク氏が訪れたケニアとウガンダの2カ所のビレッジでは、今のところサックス氏の見通しに沿っていないと、彼女は結論づけている。

サックス氏は、プロジェクトの支援要請のためにビル&メリンダ・ゲイツ財団を訪れたことがある。彼は、医療、教育、農業支援を一斉に集中的に投下する村をいくつか選んでいた。彼の仮説は、各分野の支援介入は強い相乗作用をもたらすので、好循環が生み出され、結果的に村の貧困を撲滅できるというものだった。

私と同僚は、サックス氏のアプローチにいくつかの懸念を抱いた。そこで、彼の仮説を確認するため次のような質問をした。進歩が目に見える形になるにはどの程度の時間がかかると仮定しているのか、同プロジェクトへの政府負担はどれくらいなのか、発展度の測定はどの程度実行可能なのかなど。結局、私たちはプロジェクトへの直接投資を見送った。

では、いったいどこに狂いが生じたのか。1つには、サックス氏が選択した村が、干ばつから政情不安に至るまで、あらゆる種類の問題に直面したことがある。もう1つは、プロジェクトが「フィールド・オブ・ドリームス」的な発想から始まった点だ。プロジェクトの指導者らは農民たちに、より豊かな国で需要がある農作物への転作を促した。良質の肥料や種を使って高い収穫量を上げられるようになったが、プロジェクトはこうした作物を流通させる市場開発への投資をしなかった。ムンク氏によれば、輸送費が高すぎてパイナップルは輸出できず、バナナ粉にもほとんど買い手がつかなかった。

同プロジェクトには、資金が尽きた後に成功を維持できる経済モデルがなかった。医療、インフラ、教育などの支援は、時間をかけて慎重に遂行されれば意味を成す。が、サックス氏が国家予算を徹底的に調べなかった点と、さらに多額の支援金を得るための追加課税の実行を政府に説得しなかったことは驚きだ。

一方、サックス氏の多くのアイデアが正しかったことも証明されている。たとえば、ムンク氏は2007年に起きた、殺虫剤処理済み蚊帳の無料配布を拒否していた国際援助提供者とサックス氏の間の衝突を詳細に記述している。この援助者は、人々に少額で蚊帳を販売するアプローチを支持していたが、サックス氏が反対し破談に。が、この件以降、市場モデルよりも無料モデルのほうが、蚊帳の幅広い配布と、大規模なマラリアの削減を実現できることがわかっている。

最後に、貧困撲滅のために闘う人々が、この本の内容によって投資をやめないことを望む。ベンチャー投資の世界では、30%の成功率はすばらしい成果だ。貧困や病気との闘いなどの困難な事柄に臨む際、失敗を恐れていては何一つ有意義なことを実現できない。

自らのアイデアと評判を危険にさらしてまでこのプロジェクトに懸けたサックス氏を私は称賛する。彼は自らの理論を実行に移すため、腕まくりをして困難な事柄に取り組むタイプだ。サックス氏がより確固たるアイデアとアプローチを持って舞い戻ってくると確信している。

(週刊東洋経済2014年6月14日号<9日発売>「グローバルアイ」)

次は批判された側からの反論

私の貧困撲滅策の成功をゲイツ氏は知らない | グローバルアイ | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

ニナ・ムンク氏の間違いだらけの著書について、ビル・ゲイツ氏は自身の財団が行う意義深い活動の本質である、測定と評価に対する厳格な姿勢をなぜか放棄している。「ミレニアム・ビレッジ・プロジェクト」が失敗に終わったとするムンク氏の主張を、彼はあっさり信じているのだ。だが、同プロジェクトは実際には成功している。

ムンク氏の著書でカバーされているのは、10年にわたるプロジェクトの前半の、しかもほんの一部であり、12ある村のうちの2つしか見ていない。さらに、彼女は一度もビレッジに長期滞在していない。各村を実際に訪れたのは、平均して年間でおよそ6日であり、一度の滞在期間は通常2~3日だ。公衆衛生、農業、経済、アフリカ開発、そのいずれについても、当時の彼女は何ら研修を受けておらず、経験も持っていなかった。

それだけではない。ムンク氏の観察は多くの場合、大きく誇張されている。需要の有無を考えずに私が特定の作物への転作を推奨したと、ゲイツ氏は本当に思っているのだろうか。あるいは、私が政府指導者らに対して行っている助言において、国税の検討を怠ったと思っているのだろうか。さらに、プロジェクトにおける農業政策や決定は、アフリカ有数の農学者らの主導で行われてきた。

ゲイツ氏には安心していただきたい。プロジェクトは来年、正式に専門家によって評価を受ける予定だ。この評価は、過去10年にわたって収集された膨大なデータや2015年に実施予定の新しい大規模調査のデータに基づいて行われる。

プロジェクトが毎月集めている、地域の医療提供や疾病率、死亡率に関する詳細データによれば、いい知らせはほかにもある。各ミレニアム・ビレッジにおける死亡率が大幅に減少しているのだ。現在のデータが示唆するところによれば、5歳未満児死亡率を出生1000人当たり30人未満に削減するという大胆な目標が、すでに達成されているか、達成可能なところに来ている。しかも、医療システムのコストは非常に低い。

この機会に、以前ゲイツ氏に対して持ちかけた提案を今一度持ちかけたい。アフリカ農村部の好きなところをどこでも1カ所選んでくれれば、われわれのチームが現地のコミュニティと協力して、ミレニアム・ビレッジの医療アプローチにより、5歳未満児死亡率を3%未満にしてみせよう。これは、中所得国で一般的とされる数値だ。しかも、1人当たり年間たった60ドルの医療分野コストで、5年以内にこれを実現できる。その成功を目の当たりにすれば、ゲイツ氏も、プロジェクトの設計原則に基づく低コスト地方医療システムに投資することの価値を認識するだろう。

プロジェクトの持続可能性と拡張可能性に関する懸念がある一方、アフリカの各政府はわれわれのアプローチを強く支持している。彼らは、自らのお金や政策をもって、プロジェクトがより広範に実施されることを後押ししている。

たとえば、ナイジェリアは同国の774の全地方行政区において、医療および教育サービスを全国規模で提供するために、本プロジェクトの概念を用いている。各地域政府は、イスラム開発銀行から1億ドル以上の融資を受け、プロジェクトの概念を自発的に発展させている。また、ほかの12カ国前後が、独自のミレニアム・ビレッジを立ち上げているか、あるいは、プロジェクトに触れて、立ち上げの協力を依頼してきている。

ミレニアム・ビレッジのアプローチがアフリカ中に広まっている事実から、われわれの手法や戦略、システムが非常に有用であるとアフリカの政治指導者たちが考えていることがわかる。ゲイツ氏には、近日中に予定されているアフリカ訪問中にビレッジを1カ所以上訪れ、われわれのアプローチがこの大陸全土でなぜこれほど高い関心を得ているのか、自分の目で見て理解してほしい。

(週刊東洋経済2014年6月14日号<9日発売>「グローバルアイ」より)

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