電子書籍元年っていつ?

 流行りモノ通信簿という podcast で「毎年電子書籍元年」という言葉を聞いた。Amazon のアメリカ市場では書籍の半分の売上が電子書籍になったアマゾン Kindle版電子書籍の販売冊数、紙本の全種合計を上回る – Engadget Japanese。SONY のリーダーやシャープのガラパゴスが発売された当時から毎年「元年」という掛け声を聞いてきたが、未だに普及したという実感が無い。

 PowerZaurus MI610 に電子書籍リーダーを入れて青空文庫を読んでいたデジタルヲタにとっては、昨今の電子書籍環境は夢のようだ。スマートフォンやタブレットがプラットフォームとして十分な数が出、機能的にもストレージ的にも電子書籍リーダーとして「使える」レベルになったこと。専用の端末が1万円を切る価格帯で発売できるようになったこと。回線費用が大幅に下がったことなど、10 年前には考えられなかったレベルに達している。

 にもかかわらず、電子書籍が日本で普及しないのはなぜか。日本の商習慣、日本人(作家、読者)の意識、権利関係の不透明さといった社会的なハードルが大きいように思う。下に、思いつくままに壁を列記してみる。克服できるものかどうか分からないし、克服してまで電子書籍に移行する必要があるのかどうかも分からない。ただ、社会的な資源としての森林資源の保存という意味でも電子化への流れは止められないと考えている。

  1. 読者の権利の整理:”作品を読んで楽しむ権利”と”物理本の所有権”。どこまでが読者の権利か?
  2. 価格の納得性。物理的な本の印刷代、紙代、物流コスト、在庫コストが不要になるはずなのに、その分がほとんど電子書籍の価格に影響していないように見える。今、紙の本の多くが返品・廃棄されているのに、電子書籍には全く関係のないこれらの費用を含んだものと同じ価格というのは納得出来ない。
  3. 既得権者の生活の問題。物理本流通業者を潰していいのか?
  4. 古本の取り扱い:権利譲渡の可能性。Amazonがアメリカで特許を取得しているが運用は可能か?著作権者への支払ができる技術・法整備の必要性?
  5. 共通フォーマットの不在:この本はこちらのアプリでしか読めないといった問題。サービスが終了したら権利消滅(楽天に前例あり)?
  6. 著作権者の被害者意識
  7. 読者の違法コピー・配布問題
  8. 読者の物理本に対する思い入れ。紙の本を「読む」という、情報の収集だけにとどまらない満足感への郷愁。(この場合は、例えば幼児や学童に対する教育的配慮に基づくものは除きますが)。
  9. コミュニティスペースとしての本屋。文化的な意義。
  10. 品揃え。楽天の詐欺(あえて詐欺と書きました)は論外としても、タイトル数が増えても実際のタイトルは増えていないのではという疑問は残る。どのサービスも青空文庫を入れることで一万冊のタイトル数を計上しているが、Web上で無料で読める社会の遺産であり、独自のものではない。また、同じタイトルばかりがいろんな並び、電子書籍のタイトル数は何十万にもなったのに、実際に読める種類という意味ではその数分の一しかない。電子書籍のメリットとして「在庫や流通にコストが掛からないので、従来では出版されなかった本や古い本が読める」というものがあるが、日本の電子書籍市場は全くそうなっていない。
  11. 価格の問題:電子化されることで流通費用は大幅に減っているはずなのに、ほとんど紙本と価格が変わらない。
  12. 価格が変わらないのであれば、古本に売れる紙本のほうが割安。
  13. 貸し借りの自由さがない。紙本なら家族や友人で回し読みできる。同じ支出でも他の人に貸せるのであれば効用は増える。また、貸し借りすることでトータルの購入金額が抑えられる。個人用の端末ではこれが難しい。

アマゾン Kindle版電子書籍の販売冊数、紙本の全種合計を上回る – Engadget Japanese 2011年05月19日 23時52分
 米 Amazon.com が、Kindle電子書籍の販売数がプリント版書籍を上回ったことを発表しました。アマゾンによれば、今年(2011年)の4月1日以降、紙本100冊に対してKindle本は105冊の割合で売れているとのこと。紙本の売上冊数はハードカバーとペーパーバックの両方を合計した数。Kindle本の販売数には無料書籍は含みません。また紙本の売上が落ちたせいで Kindleに抜かれたわけではなく、アマゾンでは紙本の売り上げも成長しているにもかかわらず、とわざわざ付記してあります。

去年の10月には、Amazonの書籍ベストセラーTOP1000についてKindle本の月間売り上げが紙本を上回り、TOP10については Kindle本 2冊に対して紙本1冊に達したことが発表されていました。今回の発表では、Kindleエディションが存在していない本も含むすべての紙書籍の売り上げよりも Kindle 電子書籍のほうが売れていることになります。

ベゾスCEOのコメントは、「( Kindle本の紙本越えは) いずれは訪れるだろうと望みを抱いていましたが、ここまで早く実現するとは想像もしていませんでした」。

また今月発売されたばかりの ” Special Offer ” 付き114ドル版 Kindle が、広告なし Kindle (139ドル) や大型のKindle DXを含む Kindle製品ファミリでもっとも売れている製品になったこともあわせて発表されています。

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