Wired は古本か図書館で・・・「電子書籍は本当に紙の本よりエコか?」

kindle Wired らしい問題提起だ。一般に主張されていることに眉をしかめてみせるインテリ様らしい態度は伝統芸能だ。

 自分は資料を持っていないので、電子書籍と紙書籍とどちらが環境に悪影響を及ぼすかの正確な見積は不可能だ。これは事前に断っておく。しかし、下の記事による算定の方法で紙の本のほうが環境負荷が少ないという結論が出されたのなら、違うという事は言える。

 なぜなら、比較する対象が異なるからだ。比較するときには条件を揃えるのが基本だ。だから”m”という単位で長さを測り重さは”g”で量るのだ(ローカルなものを頑なに使う国があるが、m への変換方法は用意されているので、手間はかかるが比較は可能だ)。

 デジタルリーダーのコストに製造コストやランニングコストとしての電気製造コスト、データ流通コスト、インフラ整備コストなどを含まなければならないのには同意だ。ところが、紙の本のコストとしては同じ物が計上されていない。紙の本を作るために必要なコストとして印刷機の製造コスト、製紙工場の建設コスト、売れ残りの本にかけられたコスト、流通に必要となる倉庫の建設コスト、これら全てにかかる維持コストなどを上げていない。

 電子本は環境的ランニングコストが非常に低い。電子本の利用量が増えれば増えるほど一冊あたりの環境負荷は下がっていくことは間違いない。また、電子ブックリーダーが紙の本の代わりにしか使えないものではないということにも注意が必要だ。既存のタブレット端末で電子本を読めば、その製造に関わるコストをすべて本のコストに入れなくてもいいかもしれない。他の目的で使っている端末で電子本を読むのならば、端末を作るために費やされる追加的環境負荷はゼロだ。

 同様の言い換えは紙本でも言える。上に「印刷機を作るための環境負荷が抜けている」と書いたが、すでにある機械を継続的に使う分には新たな環境負荷は発生しないという考え方もできるのだ。

 既存の設備にかけたコストは回収不能なので勘案しないという考え方も可能だが、継続していくには再投資が必要になる。紙の生産設備は紙の生産量が減れば再投資の頻度は下げられるが、電子本流通の設備投資は、他の電子データ流通による設備投資が無かったとしても減らない。ということは、全て電子本になれば紙本のための環境負荷分トータルの環境負荷は減らせると考えられる。なぜなら、電子本が流通しないとしてもインターネットの設備投資は行われるしスマートフォンやタブレットへの投資は減らないだろうからだ。

 こういった広い視野での議論なしに、一概にどちらが環境負荷が高いかは判定できない。「最も環境持続性の高い選択は、良識をもって製造された本を選ぶという条件であれば、紙の本なのだ」というのは一概には言えないが、「本の交換や、中古本市場や公共図書館を利用することが、よりエコな行為であることは間違いないだろう」には賛同する。すでに支払われたコストの利用度を上げるのが一番だからだ。環境にセンシティブな Wired 読者は古本か図書館で読むようにすべきだ。

電子書籍は本当に紙の本よりエコか? « WIRED.jp

ウンベルト・エーコが、紙の本は完璧な媒体であり、改善すべきことはないと主張しているのは、もっともなことだ。一方でウェブを巡回してみると、電子書籍リーダーの熱狂がゆっくりと広がりつつあることはすぐにわかる。

電子書籍の優位点としては、まず第一に単純に経済的であること。実際Amazonや、その他のポータルサイト(イタリアでは特にFeltrinelliとMondadori)は日々、ベストセラーについてもセールを行って、書店と折り合いをつけつつ挑戦を行っている。また、大きさと重量についても同様だ。これは特に旅行者にとって大きなメリットとなる。

しかしより重要なのは、本の生産における、つまり紙の利用と二酸化炭素排出における環境倫理と持続可能性の問題である。

かつては実質的な「環境面での節約」について不確かなことが多くあったものの、現在では、アマゾンのKindleを利用すると、1年間で、Kindleの生産によって生じる二酸化炭素排出量を埋め合わせることができるとわかっている。なんと168kgの二酸化炭素排出量(紙の本の生産約22冊分によって生じる量)を削減することができると言われているのだ。

しかし、よりインパクトのある数字は、2009年から12年に電子書籍リーダーで読書をしたすべての人々によって生じるはずの、99億kgの二酸化炭素が排出されずにすんだというものだ。このような驚くべきデータは、『Guardian』のジャーナリスト、ルーシー・シーグルが、環境問題を扱った自身のブログに掲載したものである。

考えさせられるデータがほかにもある。例えば2006年だけでも、アメリカの出版業界は、1億2,400万tの二酸化炭素を排出しているし、イギリスでは、1冊の本を生産することは、約3kgの二酸化炭素を排出することを意味している。このようなデータがあるのだから、電子書籍リーダーへの移行は当然のことと思えるかもしれない。しかし、実際にはそう単純ではない。

実際、『New York Times』によるある研究は、1台のデジタルリーダーを生産するのに、コルタンのような鉱石も含む14.96kgの鉱物の採掘を必要とすることを明らかにしている。79lの水と、100kWhの電力量(つまり二酸化炭素29.93kg分)が、バッテリーを生産し、回路をプリントするのに必要であることも加えねばならない。それだけでなく、そのために窒素酸化物や硫黄酸化物が大気に排出されることで、呼吸器系の重い病気を引き起こすことも考慮すべきだろう。

その一方で、リサイクル紙による本の生産が定着しつつある。これは本物の資源の節約となり、熱プレスをするペーストを得るのに2lの水しか消費しない。さらに、石油溶剤を用いず、大豆由来のインクで印刷される本の数は増えており、紙を漂白するために塩素を用いる生産者の数は減っている。

結局のところ、紙の本と電子書籍リーダーのうち、最も環境持続性の高い選択は、良識をもって製造された本を選ぶという条件であれば、紙の本なのだ。さらに言うなら、本の交換や、中古本市場や公共図書館を利用することが、よりエコな行為であることは間違いないだろう。

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