シューズの低ドロップ効果の正体

New Balance 1040
TARZAN No.728 P58 より
 ミズノ ウェーブ16のページを見ていて疑問を感じた。去年からランニングシューズを見始めたばかりで、長期的な流れがあったのかどうか分からないが、ドロップ(かかとと前足部の底の厚さの差)の少ないことをアピールする方向があるようだ。ミニマリストシューズやフォアフットストライクを推奨するようなメーカー(ビブラム、Newton runnin shoes など)やエリートレーサー向けは前からドロップは少なかったようだが、一般ランナー向けのクッションシューズでドロップの少なさをアピールするモデルが現れた。

 自分が見た範囲では New balance 1040 が 12mm から 8mm にしたことを雑誌のタイアップ記事でアピールしていた(ホームページには記載がない)。もう一つがミズノ ウェーブエアロ 16。前年のページにはドロップについての記載はない(ウェーブエアロ 15)が、ウェーブエアロ 16のページにはドロップが9mmであることをアピールする説明がある。さらにミズノのサイトにはドロップ別シューズチャートを用意されている。

 ウェーブエアロ 16の説明に少し引っかかった。
ミズノ wave aero 16

 「ドロップが小さいことにより、推進方向へ体重移動が促され、よりスピードに乗った走りをサポート。」とある。日本語が微妙な点は置いといて(副詞句が続いているのに名詞で受けている点)、ドロップが小さいことにより体重移動が促されるとしている点が分からない。

 シルエット図もおかしい。ランニングの違う瞬間を切り取っていて、ドロップの影響を全く表現できていない。左の図はヒールストライクで体重より前方で着地している図であって、その原因がシューズのドロップではない。ドロップが大きかろうが小さかろうが、このようなフォームで走れば同じような姿勢で着地する。

 物理的にはドロップが大きい方が体重移動は促されるはずだ。こんな事物理の初歩だろう。急な坂道のほうが自転車やスキーの速度が出るのと同じだ。鉛直方向から斜面にボールを落として急な坂とゆるい坂とでどちらが下方向に向かって前に落ちるか考えれば分かる。そもそも、ランニング用のシューズにドロップを付けたのは、体重移動がスムーズにできない初心者が前方に着地しても体重移動がスムーズになるようにだろう。

 では、ドロップが少ないことによるメリットはなんだろう。重心の下で着地できるミッドフット・フォアフットストライクのランナーにとっても、ドロップの角度は体重移動を助けないのか?

 まず、ドロップ角度による体重移動サポートだが、着地が重心位置に近いランナーは着地した時点でシューズのかかとより前に重心が来ているので体重移動をサポートする必要はほとんどないと考えられる。身体は慣性モーメントで着地した足を追い越すように前に進んでいるので靴の上を体重が移動している時間はない。体重を受け止めると同時に地面を押してジャンプしなければならない。なので、ドロップの角度による体重移動アシストのメリットはほとんどないと考えられる。

 しかしこれだけでは、速いランナー向けのシューズのドロップが少ないことの説明にならない。何らかのメリットがなければならないだろう。

 遅いランナーでしか無い自分の予想だが、ドロップが少ないほうが足首を使う角度が増えるからではないか。ドロップが多ければ、着地して体重が地面にかかった瞬間にドロップの少ないものより足首が伸びた状態になる。離陸時の足首の角度までが足首(ふくらはぎ)を使うが、その時に使える角度がドロップの少ないシューズのほうが多い。(ディババ選手のような極端なフォアフットストライク走法だと短距離選手のようにかかとを着くことがないから余り関係なさそうだが、例外だろう。)着地位置が重心に近づけばそこから離陸までの接地距離は短い。着地した時点で力をため、ふくらはぎの伸張反射によって地面を押し返すというイメージに見える(本人がどう思っているかは知らない)。

 実際に、ドロップがないVFFでジョギングをしたときにふくらはぎの筋肉が固まって10日くらいほぐれなかった。それだけふくらはぎに負担がかかるということは、ふくらはぎの筋肉が鍛えられればそのフォームで走れるようになるということだ。ふくらはぎにかかる負担とふくらはぎの筋肉を効果的に使える角度との妥協点とメーカーが考えるのが8mm前後というものなのだろう。同時に、VFFなどのミニマリストシューズは、ふくらはぎや下肢の筋肉に負荷をかける事で鍛えることを目指しているのだろう。

 話は逸れるが、このときにディババ選手がふくらはぎの筋力で進んでいると考えるのは間違いだろう。大腿骨を引っ張る大殿筋、下腿骨を引っ張るハムストリングスの筋収縮パワーこそがスピードの根源だろう。ふくらはぎの伸張反射は滞空時間(飛距離・ストライド)を稼ぐのに使われているのではないだろうか。知らんけどww

オレンジが足の裏で青がシューズの底。左がドロップが大きい。(左向きに走っている例)
 また、それらとは別にヒールストライクを危険とする認識が広がるに連れ、ヒールストライクをミッドフットストライクにしたいと願うランナーが増えてきたというのも、低ドロップの流行につながっているだろう。なぜなら、ドロップが多いとヒールストライクになりやすいからだ。ドロップが多いシューズを履くと厚みの分だけつま先を下げて着地しないと路面に対して平行に着地しないからだ。逆に言うと、同じように足を運んだとしてもかかとから先に着地してしまうということだ。

 だから、Born to Run でタラウマラ族に憧れた初心者がフォアフットストライクを身に着けようとミニマリストシューズあるいは極端には裸足で走ることが一時期ブームになったのだろう(今でも続いているのかは知らない)。

 ただし、この場合でもVFFを履けばフォアフットストライクになるのではないし低ドロップのシューズを履いたからといってミッドフットストライクになるわけではない。重心の下で着地するフォームを身につければそうなりやすいということでしかない。結局いちばん重要なのは着地位置と思われる。重心の下で着地できればドロップの多いシューズを履くメリットはなくなり、低ドロップのメリットが勝ってくるということだ。そのようなフォームを身に着けていれば結果として速度が、重心より前に着地していた時より速いのは当然だ。

 まあでも、先日のミズノ・ランニング・クリニックで試着させてもらったこのシューズには Adidas Boston boost のような感覚があったので、福知山マラソンのセールで買ってみるつもりだった(通常価格では Boston boost より高いので買う気にならなかった)が、16はなかった。New balance 1040 も旧モデル(上の写真で比較対象になっている12mmドロップ)しか無かったので諦めて、NIKEを買った。

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