とめどない量的緩和の行く末

kuroda-abe 「日銀の量的緩和によって株価が上がり景気が回復した。アベノミクスを批判するのは誤り」といった発言・書き込みを見聞きすることがある。また、アメリカの利上げが延期されたり中国が景気刺激策を取れば全てが景気が良くなるような気持ちでいる人が多そうだ。目前の株価のことしか考えていないのだろう。

 量的緩和は一時しのぎにしか過ぎない。開いた風呂敷は閉じなければいけない。アメリカはそれをやろうとしている。日本は全く無策でこれっぽっちも手を付けられないでいる。株価を維持するためだけに量的緩和を続けているが、緊急避難的な一時しのぎにしか過ぎないものを続けていることのほうがよほど危険だ。もちろん、出血している人間に止血をせずにサプリメントを飲ませても意味は無い。とりあえず応急措置をするのは間違いではない。それには依存はない。経済対策を打つなとは言っていない。

 問題なのはその方法だ。出血している人間にAEDをかけても意味が無いのだ。血が出るような増税をやっておいて反応のないAEDをかけていることだ。緩和をしても実体経済の活性化にほとんど効果を表していない。それは工鉱業の生産を見れば分かる。工鉱業の生産は主に中国の影響を受けている。黒田総裁の緩和なんて決算数字に影響する位のものだ。株価が上がって自己資本は増えたようにみえるかもしれないが、キャッシュフローには関係ない。日本企業が持っている株式の多くは持ち合い株で相手との取引を止めない限り売れない。株価が上がって含み益が増えても仕入れの支払いには使えない。

 問題なのは、株価上昇の恩恵なんかこれっぽっちも受けなかった、投機家でもない一般人の生活に振りかかる。年金の支払いの抑制、健康保険の個人負担額の増加・・・景気の長期低迷(実体経済が回復傾向になっても、ばら撒いた流動性の回収ために足を引っ張られる)とそれによる実質賃金低下・・・その時に自民党政権を批判しても遅い。(かといって、今、自民党以外のどの党がまともな経済運営、外交を行えるのか絶望感だけが漂うが別の話・・・)。

 遠回りして恩恵に預かったと言われるかもしれないが、「景気回復・デフレ脱却」の御旗のもとに行われた消費税増税や食料品価格の上昇のほうが直接的で大きかったはずだ。円安効果によって決算数字だけが良くなった(それすらも限定的だったが)大企業に勤務している人間の賞与が上がったくらいで、統計に乗らないような非正規雇用や中小企業勤務の会社員などには無関係だ(実際、自分の今年の年収はダウンなはずだ)。

李克強首相が警戒する、とめどない量的緩和の行く末:日経ビジネスオンライン
 そうした中、英経済紙フィナンシャルタイムズ(アジア版)が4月16日、中国の李克強首相の単独インタビュー記事を掲載した。李首相は、中国経済が下押し圧力に引き続きさらされていることを率直に認めたうえで、7%前後という今年の成長目標を達成するのは容易でないとしつつも、「われわれは経済動向を適切なレンジ内に収める能力がある」と言明。「昨年10~12月期以降、われわれは財政・金融政策にファインチューニング的な調整を加えてきた。しかし、それらの調整は量的緩和政策ではない(but these adjustments are not a QE policy.)。代わりに行われたのはターゲットを絞った規制上の手段であり、それらには効果があった」と説明した。

 上記の発言からもうかがわれるように、量的緩和という政策手段を、李首相は好意的にはとらえていない。むしろ、米国が利上げに続いて量的緩和からの「出口」を模索することが今後見込まれる中で、市場や経済に混乱が生じて、中国も巻き込まれることを警戒しているようである。今回のインタビュー記事には李首相の次のような発言があり、筆者にはかなり印象的だった。

 「量的緩和政策を導入するのはきわめて簡単だ。それはプリンティングマネーと変わらないからだ」

 「量的緩和が行われている時にはすべての種類のプレーヤーが、この大きな海(this big ocean)の中で何とか浮かんでいられるかもしれない」

 「しかし、量的緩和が取りやめられる時にそこから何が起きる可能性があるのかを、現時点で予測するのは難しい」

 李首相はさらに、世界的な金融危機の根本的な原因に対処するために必要な構造改革に、ほとんどの国がまだ取り組んでいないと警告。「点滴と抗生物質投与」を受けており、まだ自力で回復するための免疫機能が強化されていない患者に、世界経済を例えた。

 量的緩和からの「出口」を模索しようとしている米国のケースは、まだましと言える。より大規模な緩和策である日銀の「量的・質的金融緩和」の場合、2013年4月に開始されてからすでに約束の2年程度が経過しているが、「物価安定の目標」である2%を達成するメドはまったく立っておらず、昨年10月に続いての追加緩和がおそらく今年10月に行われるだろうと、筆者を含む多くの日銀ウォッチャーが予想している。

 国会や記者会見の場などで「量的・質的金融緩和」からの「出口」についてたずねられると、そうした議論は「時期尚早」だと黒田日銀総裁は返答している。実は、日銀の「出口」を巡るこうした論議で欠落している大きな部分が一つある。

目標が達成されない時の出口戦略がない

 それは、あたかも当然のことであるかのように2%の「物価安定の目標」が達成されることが前提になってしまっており、いつまでたっても2%目標が達成されないケースでいつ、どのような形で日銀はあきらめてこの金融緩和を取りやめるのかという議論が、日銀の中でも外でもまったく行われていないことである。

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