香ばしい調査

 香ばしい調査結果鑑定士を名乗る俺としては、こんな調査は避けて通れない。

asahi.com: 9割が著作権許諾なし 音楽ダウンロード社会

 「Winny(ウィニー)」「WinMX」などのファイル交換ソフトでダウンロードされた音楽ソフトの90%は、著作権を無視――。

 コンピュータソフトウェア著作権協会と日本レコード協会が31日発表した、交換ソフトの利用実態の調査でこんな実態が分かった。映像ソフトでも86%が、著作権の対象なのに許諾を得ていないという。

 「はぁ?」と声に出して言ってしまったが、lokiさんが的確に突っ込んでいるので、あらためて書くことはない。こちらをどうぞ。

ENSIS: 新人様が書いたのかな?

まず、見出しをセンセーショナルにするため(?)、大事な部分が抜けております。所謂、アプリオリ(大前提)の部分がまずい・・・というかやばい。

 次も似たような調査。まず、ケータイウォッチの記事。

先進的なITユーザーに人気のケータイメーカーはシャープ
 インターネット生活研究所は、年収の10%以上をIT関連製品やサービスで消費する先進的なITユーザーの消費動向に対する調査を行ない、「先進ITユーザー消費動向調査報告書2005」としてまとめた。調査期間は5月9日~16日で、インターネットを利用する男女1,850人から回答を得た。

 こちらが調査書の広告ページ。

インターネット生活研究所 – 先進ITユーザー消費動向調査報告書2005

 一般家庭におけるケータイやインターネットサービスプロバイダーの利用料金や、パソコンや周辺機器にHDDレコーダーやシリコンオーディオプレーヤーなどのデジタル機器の購入金額は、平均で年収の4~5%と言われている。しかし、中には年収の5~10%、中には20%を超える金額を、IT関連に支払っているユーザーが存在する。

 彼ら「先進ITユーザー」は、新製品や新サービスの情報収集に熱心で、また自ら製品を購入したりして実際に試すことを厭わない。それどころか、そこにある技術が新しければ新しいほど、試さずにはいられない。そういった彼らの製品に対する評価や、消費行動自体がその新製品の売れ行きを左右することもある。

 そんな先進ITユーザーの消費マインドを明らかにするために、今回IT関連のニュースサイトとしては国内最多のページビューを誇るインプレスWatchシリーズの読者を中心にアンケートを実施し、その分析結果をレポートとしてまとめた。

 調査内容は、年収に対するIT関連製品への支出を軸にして、IT関連製品やサービスに対する支出だけでなく、情報収集から実際に購入に至るまでの期間など、消費にかかわる行動について、さらにこれから市場に登場する予定の新技術に対する期待度など多岐にわたっている。

 情報家電メーカーや携帯端末メーカー、通信事業者のみならず、コンテンツ開発やIT関連メディアにとっても、今後の製品開発や企画立案に大いに役立つだろう。

 このページの下のほうに「IT消費指数」という、新しい経済指標(?)を提案していた。

<「IT消費指数」とは?>
IT関連の支出の合計(ISP接続料、NTT等回線使用料、ケータイ使用料、有料サービス料金、ハードウェア購入予算など)が年収に占める割合を示す。情報に対するエンゲル係数のようなイメージとして定義している。

 広告のページには見出しくらいしかないので、インプレスのリリースにある分析の要約を見ていこう。赤字は俺の突っ込み。

インプレス グループ:~インターネット生活研究所が「先進ITユーザー消費動向調査報告書2005」を発売~

先進ITユーザーにはシャープ製ケータイ端末が人気<2割以上のユーザーが使用>

 株式会社インプレス(本社:東京都千代田区、代表取締役:塚本慶一郎)のシンクタンクである「インターネット生活研究所は、年収の10%以上を IT関連製品やサービスで消費する先進的なITユーザーの消費動向、新技術・新製品に対する興味、嗜好など調査したレポート「先進ITユーザー消費動向調査報告書2005」を5月31日より発売いたします。

 「先進ITユーザー消費動向調査報告書2005」によると、年収の10~15%をIT関連サービスやデジタル製品で消費するユーザーにはシャープ製ケータイ端末の人気が高いことが分かりました。今回の調査におけるサンプル全体でのケータイのメーカー別シェアは、1位がシャープ(17.6%)、2位が松下電器(15.3%)、3位がNEC(12.3%)、4位がソニーエリクソン(11.8%)となっています。これをIT関連への消費の度合いでユーザー層を分けて見てみると、年収の10~15%をIT関連に消費する層はシャープ製端末に使用比率が22.1%と平均より5ポイントも上がり、2位の松下電器に7ポイントもの差を付けています。サンプル全体では3位のNEC端末は10.5ポイントと若干落ちて、4位のソニーエリクソン(13.7%)と順位が入れ替わります。また年収の5%未満しかIT関連に消費しない層では、シャープが16.2%、松下電器が15.5%、NECが14.6%と、上位3社がほぼ横並びになり、ソニーエリクソンが10.3%となっています。

『先進ITユーザー消費動向調査報告書2005』 注目の調査結果「注目」て・・・

■年収の10~15%をIT関連製品・サービスで消費するユーザーの1/3がインターネット通販でデジタル機器を購入する
 デジタル機器を主に購入する場所に関して尋ねたところ、調査対象の全体ではターミナル駅に立地するカメラ系大型量販店が最も多く(28.8%)、次いで郊外型の大型量販店(25.4%)、インターネット通販(25.2%)となって、この3つで約8割を占めている。また、年収の 10~15%をIT関連製品・サービスに投資するユーザーに絞ると、インターネット通販が32.1%にまで伸び、カメラ系大型量販店の28.7%を抜いて首位となる。逆に郊外型大型店は19.6%にまで落ちる。

 IT先進ユーザーでなくても25%が通販というのが調査の母集団の異常な偏りを示していないだろうか。デジタル機器を個人が購買する場合の購入先でネット通販が25%もあるとは信じがたい。

■FTTHはIT関連製品・サービスの消費が大きいほど導入率も高く、消費が少ない層とは最大で10ポイントの開き
 家庭におけるインターネットの接続方法はADSLが首位で(54.6%)、2位は27.4%で光ファイバー、3位は11.7%でCATVという結果。 FTTHの導入をIT関連への消費比率別に見ると、IT関連の消費が年収の5%未満のユーザーは22.9%なのに対して、年収の15%以上をIT関連製品・サービスで消費するユーザーは33.1%が導入しており、10ポイントの開きがある。

 ここでも母集団の特異性が際立っている。ブロードバンドが93.7%もある。一般家庭へのブロードバンド普及率は50%にもいってない。また、他の調査ではIT関連製品・サービスに投資するユーザーをIT先進ユーザーとして扱っているのに、ここでは15%以上となっている。10%~15%とするとあまり差がなくなってしまったんじゃないか。自分の都合の良い結果を導くために母集団に対する調査結果でしかないものを一般化したり、セグメント分けを変えるような調査は信用できない。

■年収の10%以上をIT関連の製品・サービスで消費するユーザーの50%以上がケータイを2年以内に変更する
  ケータイの買い換えサイクルは、全体では1年以上2年未満が34.1%、2年以上3年未満が33.4%となって、この2つでほぼ7割を占めている。1年以内に買い換えるというユーザーは6.8%にとどまる。 IT関連の製品・サービスへの消費比率別に見ると、ケータイを2年以内で買い換えるというユーザーは、年収の15%以上をIT関連で消費する層では半数以上(55.4%)なのに対して、IT関連の消費が年収の5%未満の層で31.7%にとどまり、20ポイント以上の開きがある。

ここでは10%以上。

■先進的なITユーザーほどケータイに新機能・新サービスと使い勝手を求める
 ケータイの買い換え理由を尋ねたところ、全体では「バッテリーの劣化」(1位、33.4%)と「新しいサービス・アプリを使うため」(2位、 30.0%)が飛び抜けており、続いて「3Gに移行したい」(3位、17.4%)、「現使用機種の使い勝手が悪い」(4位、15.7%)の順になる。IT 関連の消費比率別でみると、年収の15%以上を消費する層はバッテリーの劣化が29.5%まで落ち、新サービス・アプリの利用を買い換え理由に挙げる人が 37.5%まで伸びる。また「現使用機種の使い勝手が悪い」も21.0%と全体よりも6ポイント高くなっている。

また15%。それに、50%以上が2年以内(これが2年11ヶ月を含むのか2年未満を意味するのか不明だが)に買い換えるというユーザーの交換理由が「バッテリーの劣化」なはずはないだろう。

■先進的なITユーザーはマルチコアCPUと超高速無線LANに期待が大きい
 これから登場予定の新製品や新サービス、新しい技術が発売された場合、購入したいかどうかを尋ねたところ、もっとも期待が大きいのは次世代 Windows(37.8%)だった。その他の上位では、マルチコアCPU(26.8%)、Blu-ray Disc(25.8%)、モバイルIP電話(25.3%)、HD-DVD(24.2%)などに期待が集まっている。ITへの消費比率別では、先進的なIT ユーザーほど、ほとんどの技術・製品において一般層よりもポイントが高くなっているが、なかでもマルチコアCPUは35.5%と約9ポイント高く、 IEEE 802.11nも15.7%と全体(10.3%)よりも5ポイント高くなっている。

一位の「次世代 Windows」について見出しにしないのは何でだろう。超高速無線LANなんて15%しかない。どんな調査項目で「期待」を測ったのかわからないが、チェックボックスの複数回答に違いない。新しいものの名前を並べて「期待するものにチェックしてください」というような調査では何も分からない。最低でも回答数を制限しないと傾向は分からないだろう。高い数字を欲しい時に良く使われる調査だが、得られるものはほとんどない。

< 調査方法>

調査対象:インターネットを使っている男女個人
対象地域:全国
調査手法:インタラクティブウェブ調査
サンプリング:株式会社インプレスがインターネットを通じて提供するデジタル総合ニュースサービス「impress Watch」のウェブページで告知し誘導。また、「impress Watch」や株式会社インプレスが発行するパソコン入門書「できるシリーズ」の読者向けメールマガジン、ECサイトである「インプレスダイレクト」の利用者へのメールマガジンでの告知により誘導。
最終有効回答数:1,850人
調査期間:2005年5月9日(月)~16日(月)

 細かい突っ込みは赤字で入れた。ここからは、全体にかかるものだけにしたい。まず、「IT関連製品やサービス」の内容が説明されていない。ビデオやテレビがIT機器に入るのか?ケータイ電話もかなり怪しい。IT機器と呼べるかもしれないが通話料が多い人をして「先進的なITユーザー」とは思えない。

 また、「年収の10%以上をIT関連製品やサービスで消費する」人と「先進的なITユーザー」との関係が不明。母集団が全く分からない。その人の生活の中でIT関係に支出する傾向が強いだけで、先進的かどうかは関係ないだろう。年収が低ければ、ケータイ電話と回線費用だけで10%以上支出することになるかもしれない。ケータイの支出にPCやHDDレコーダーを買ったら年収の10%超える人も多いだろう。そして、突発的に10%を越えただけの人が来年以降も「先進的なITユーザー」として消費を引っ張るとは思えない。高価な財を買えば係数は上がる。係数の高い人間が高価なサービス(ADSLよりFTTH)を使っているのは、先進的だからではなく、高いサービスを使っているから係数が上がったに過ぎないだろう。

 「IT消費指数」がエンゲル係数のようなものということもおかしい。食費は、一般的な社会生活を営む大多数の人間は大きくは変わらない。収入が少ないからといって、月1万円では生活できない。かといって、年収が3倍になったからといって、5倍の食費を使うことも考えられない(外食や飲み屋の散財は食費ではなく遊興費)。だからこそ、世帯に占める必要最低な支出が収入の何パーセントになるか。それによる、生活の「きつさ・余裕」を表す指標として普遍性があるのだ。だから、国や通貨が違っていても比較することが可能なのだ(その他の税や社会保障費負担は添付資料として必須だが)。

 エンゲル係数の高い家庭が消費の牽引になるかどうか考えてみろといいたい。エンゲル係数の高い家庭のメニューが先進的だと思っているんだろうか。この指標を思いついたときに疑問に感じなかったんだろうか。

 繰り返しになっているかもしれないが、高い財を利用している人間の支出割合が高いのは当り前だ。「たくさんタバコを吸っているヘビースモーカーはタバコに対する支出率が高い」というのと同じだ。同じことを別の言い方で言っているだけなのだ。

 先進的なITユーザーというものの定義も分からない。ユーザーなんだから開発者や管理者ではないだろう。ビンボーなのにケータイ使いまくりの人?金持ちで次々最新パソコンを買い換える人?そんなセグメントとして共通点の少ない集合の好みを聞いたからって何か意味があるのか。PCやケータイに金をかけている人は却って先進的とは思えないのは俺がヲタなせいだろうか。しかも、分析項目によって、10%以上だったり15%以上だったりするし。また、その「先進的なITユーザー」がこの調査の何パーセントだったのかが、ここでは全く分からない。

 本の宣伝だから、詳細を書く必要はない。しかし、その調査結果を記事として紹介する場合は、その記事にした数字の根拠は示すべきだ。この場合は、「先進的なITユーザー」の数だ。これが示され始めて、「インプレスのサイトでやったアンケートで、年間収入の10%以上をIT関連に消費しているヲタXXX人ではシャープを支持する人が多いんだな」ということが分かる。

 こんな胡散臭い調査をしている「インターネット生活研究所」とは何だとリンクをたどったら、インプレスのグループ企業だった。

インターネット生活研究所

 ネット社会の普及期である現在、進むべき方向性については模索が続いています。 インターネットの普及率が半数になった今も、家庭や仕事場において、IT利用による本格的な効能はまだ表れていないのではないでしょうか。企業においても、IT投資による経済効果や効率向上が実感されているとは思えません。また個人レベルでも、デジタル化による生産性や楽しみ以上に、テクノストレスも生み出しています。  情報流通が水平方向に変化しているのに、企業の情報システムや商品開発プロセスが、まだ従来の一方通行モデルから抜け出せていないのでは、と疑問に感じ続けてきました。これが、このインターネット生活研究所(※1)を設立した最も大きな理由です。
 我々は研究活動を通して、商品開発を行う企業と、それを利用する消費者の距離を近づけ、利用者参加型の商品開発を提案します。それにより、企画・設計・製造・宣伝・販売という既存の商品開発プロセスの変革を起こそうとしているのです。結果として、企業においてはインターネット文化の成熟期(※2)にふさわしい商品やシステムのあり方、また利用者においては豊かな個人生活の実現に貢献したいと願っています。

 「個人レベルでも、デジタル化による生産性や楽しみ以上に、テクノストレスも生み出しています。」というのは、一般的な認識なのか?個人生活におけるテクノストレスって何だよ。初めて聞いたよ。PCの調子が悪くてストレスがたまることは人一倍多いが(^^;

 進むべき方向を模索するための調査に変なバイアスをかけるのはどうかと思う。というより、ミスリードに繋がると思う。個人が個人のサイトでアンケートをして好き勝手な解釈をするのは構わないし、大好きだ。しかし、マスコミが普遍性のある情報のように垂れ流すのは害がある。インプレスと日経BPはこういう業界ちょうちん持ち調査分析が多いから、見ていて楽しい。

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