「脳はすすんでたまされたがる」或いは脳の脆弱性について

 まだ9月だが、今年一番面白かった本がこれといい切っても良い。図書館で二度借りしたほどだ。電子書籍版が出たら絶対に買う。二回借りても汲み尽くせない内容の深さだ。サブタイトルはキャッチーに「マジックが解き明かす錯覚の不思議」と書かれているが、マジックのネタ明かし本ではない。マジシャンが経験から見つけた人間の知覚の脆弱性を心理学或いは大脳生理学の視点から学ぶという本だ。

 興味深いフレーズを Wiki に書きだしたので読んでいただきたい。興味をひかれた方は「脳はすすんでだまされたがる マジックが解き明かす錯覚の不思議」のリンクからお買い上げいただきたい。

 この本で知ったのは、人間の目が見られる範囲がいかに小さいかだ。というより、光子を受けた受容体からの情報を脳で「見る」段階でいかに多くの情報が抜け落ちるかだ。そして、脳が如何に手を抜いて情報を無意識のうちに取捨選択しているのか。「注意」とはなにかも興味が尽きなかった。

 「人は見たいものを見る」というフレーズはここにも書き記したが、実際には見たいものすら見ていない。しかも、視覚的には見えているのに脳には見たという記憶が残らない。

 この本を読んでからは「百聞は一見にしかず」という言葉が無意味に思えた。百聞も一見も同じ情報として虚心で総合的に当たらなければならない。むしろ、資格に対する人間の依存度の高さから考えて、見たことはよほど注意深く取り扱わなければならないだろう。

 この事実を知るにつけ、目撃者証言のあてにならなさを知らされる。最近の事件で、殺人事件の現場付近で犯行時間前後に白い車を見たという証言が報道されていた。本当か嘘か自分には判断できない。ただし、白い車に絞った捜査は早計だろう。今は先入観を捨てた捜査こそが重要だ。

 「説得力があるからこそ余計に慎重に」だ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です