コラム:人民元安は日本経済に逆風か追い風か=嶋津洋樹氏 | Reuters

SMBC日興証券 中国の景気対策を歓迎しているが、近視眼的視点としか考えられない。

 中国の輸出競争力の強化による景気回復は、一部では日本企業の製品の輸出につながるが、それ以上に日本企業の製品輸出への競争力低下につながる。部品の輸出と背品の輸出の価格や付加価値を考えれば分かるだろう。100万台のPCが売れた時に液晶パネルが100万枚売れるのと完成品のPCが100万台売れるのと比べれば分かる。

 景気回復で中国の国内需要が増えればいいが、今の状況はそのレベルではない。中国の首脳が「需給調整に5年かかる」と言っていたのを見れば分かる。中国も供給過剰の調整に苦労しているのだ(日本はもっとひどいともいえるが)。

 証券屋は目先の株価のことしか分からないのだろうか(疑問形w)。

コラム:人民元安は日本経済に逆風か追い風か=嶋津洋樹氏 嶋津洋樹 シニア債券エコノミスト| Reuters
[東京 12日] – 人民元は、中国が2005年7月に外国為替制度の改革を発表して以降、リーマンショックの前後を例外とすれば、ほぼ一貫して対ドル相場を切り上げてきた。だからこそ、中国人民銀行(中央銀行)が11日に人民元の対ドル中心レートを前日比で約1.9%引き下げたことは驚きを持って受け入れられた。

それは中国が通貨安競争に参加することを意味し、競合する国では輸出の停滞を通じて、景気の下振れリスクが増幅するからだという。こうした見方があるからこそ、日本を含む世界の株式市場は、中国の景気テコ入れ本格化を好感した10日の欧米市場の流れに乗れず、一転して下落へ転じたのだろう。

もっとも、上記の見方は次の2つのプラス面を見逃している。まず、通貨安には基本的に対外的な競争力の回復や為替差益の拡大を通じて、景気を押し上げる効果がある。例えば、アベノミクスが始まって以降の通貨安は、多くの批判的な意見にもかかわらず、輸出企業の収益やインバウンド消費(訪日外国人による消費)などを通じて国内経済に恩恵をもたらしている。

次に、今や世界第2位の規模を誇る中国の景気回復は、世界景気にとって追い風にこそなれ、逆風になるとは思えない。

中国の輸出品には当然、日本製の部品なども使われているはずである。また、中国景気の回復はそれが当初、輸出主導であったとしても、徐々に内需へも波及する可能性が高い。中国が国内のすべての需要を自国だけで賄えるわけではない以上、同国の景気回復は日本のみならず、アジアや欧州、米国などで輸出を増加させるはずである。

中国の海外旅行ブームは、すでに短期的な景気に左右されないほどの盛り上がりになっていると考えられるが、雇用・所得の環境改善はそうした盛り上がりを一段と後押しするだろう。

今回の切り下げには、金融政策の自由度を確保する狙いもあると思われる。というのも、中国の資本フローは2014年後半以降、流出が目立ち、同時に外貨準備も減少しているからだ。

中国は人民元を事実上、厳格に管理しているため、そうした資本の流出は中国人民銀行に自国通貨買い・外国通貨売り(この場合は主に人民元買い・ドル売り)での対応を迫る。それは国内での人民元不足を通じて、金融引き締めの効果をもたらすと考えられる。中国人民銀行は2014年後半以降、貸出金利などの引き下げに踏み切っていたが、その効果の少なくとも一部は、従来の外国為替制度の下で減殺されていた可能性が高い。

こうした筆者の考え方は、「外国為替相場の安定」「資本移動の自由」「金融政策の自律性」という3つの政策目標は同時に満たすことはできないという「不整合な三角形」あるいは「国際金融のトリレンマ」からも説明できる。

つまり、中国は従来、資本移動を大幅に制限することで、「外国為替相場の安定」と「金融政策の自律性」を確保していた。しかし、金融市場の自由化などを進めるなかで、資本移動の制限を維持することが困難となり、それが金融政策を国内経済の回復に割り当てることも難しくしていた。そのことが、株式相場の下落を受けた規制の強化とその後の金融市場の反応で、一段と明らかになったと考えられる。

中国政府の今回の人民元をめぐる決断は、一段の景気減速を回避するために「外国為替相場の安定」の一部を放棄することで、「金融政策の自律性」を優先したと言うこともできる。

<高まった中国景気回復の可能性>

実際、中国人民銀行は今回、通貨の切り下げとともにその算出方法の変更も発表し、声明文では市場を重視する方針を強調している。

中国人民銀行のスポークスマンが、新興国が直面する通貨下落の圧力や、国際的な資本フローの変動に言及したことも併せて考えると、中国政府が今回、「不整合な三角形」を意識して一連の政策変更に踏み切ったことは想像に難くない。当然、外国為替市場における今回の変更は、中国人民銀行がこれまで実施してきた金融緩和策の効果を高めることが期待されているだろう。

なお、中国人民銀行の政策金利は主要貸出金利(1年)で4.85%、預金金利(1年)でも2%と、日米欧の主要な中央銀行とは異なり、大幅なプラス圏にある。

今回の一連の措置が、足元で落ち着きつつある中国からの資金流出を大幅に加速させないことが明らかになれば、中国人民銀行は金融政策を今まで以上に国内景気の安定のために割り当てることができる。それは、すでに報じられている景気対策と組み合わせることによって、景気回復を確かなものにするだろう。中国政府が景気のテコ入れに今まで以上に真剣になったことだけでなく、次の一手も視野に入れていることを示すと思われる。

筆者は中国景気の先行きについて、中長期的には課題が多く、決して楽観しているわけではない。しかし、少なくとも短期的にはこれまでの政策が奏功することで回復へ向かう可能性が大幅に高まったと考えている。

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントを経て2010年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとして、日米欧の経済、金融市場の分析に携わる。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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