アベノミクスに大逆風、安倍政権に足りないのは何か 真壁昭夫

20150908_pie 妥当な(と、自分が思うこと)が書かれている。どう考えるかは読んで考えていただきたい。

 面白いのは右のグラフ。ダイヤモンド・オンラインは比較的にアベノミクスに批判的な論調の記事が多いし、このタイトルなので、最後まで読んだ人はアベノミクスに批判的な人が多いから当然の結果だろう。また、選択しに問題がある。アベノミクス賛成派の人はこの選択しでは答えられないだろう。「経済より安保が重要」と思っている人も中にはいるだろう。

 そして、この論調の延長上のような投票結果。見事に、「構造改革・成長戦略」が過半数。アンケート調査の結果は事前説明によって大きく左右される。実は、この文章のどこにも「じゃあ、効果のある構造改革・成長戦略って何」については何一つ提言はない。この選択肢の中で唯一選択可能な具体的な政策は「消費税増税先送り・取りやめ」だけだが、18%しかない。

アベノミクスに大逆風、安倍政権に足りないのは何か|今週のキーワード 真壁昭夫|ダイヤモンド・オンライン
最大の成果であった
円安・株高に世界経済の逆風

 これまでの“アベノミクス”の最大の功績は、異次元の金融緩和策によって円安トレンドを作り出し、株価を押し上げたことだ。それによって、一時期、景気回復への期待が盛り上がった。

 ところが、7月以降の中国経済の急減速やそれに伴う世界的な株価下落で、円安・株高に陰りが出始めている。それに伴い、アベノミクスの功績が少しずつ消え始めている。

 今回の金融市場の混乱は、中国経済の減速懸念の鮮明化により、ヘッジファンドなどが保有する金融資産のリスク量を減らす行為に走り始めたことが原因だ。大手投資家のリスクオフの動きだ。

 そのリスクオフのオペレーションによってわが国の株価も不安定な展開となり、9月4日の日経平均株価は、8月末の高値である2万800円台から約15%も売り込まれることになった。

 また、為替市場ではヘッジファンドや為替ディーラーが、今まで積みあげてきたドル買い・円売りの持ち高の巻き戻しに動いている。そのため、円が買われて強含み、ドルが売られやすく弱含みの展開になっている。

 足元の株式、為替市場の動きは、アベノミクスにとって無視できないマイナス要素として作用するだろう。今後、そうした状況が続くと、経済を活性化してデフレから脱却するという目的を達成することが難しくなる。さらに、アベノミクスに希望を抱いた人々を失望させることにもなりかねない。

 安倍政権発足以降、アベノミクスに好循環をもたらした経済状況は、徐々に厳しい条件を突きつけ始めている。ここから本当の意味で、その真価が問われることになる。

ここまでは“及第点ギリギリ”
重要な改革や成長戦略が手つかず

 これまでのアベノミクスを成績評価すると、率直に言って、及第点ギリギリというところだ。円安・株高の成果をもたらした一方、本当に重要な構造改革や社会保障制度の改革、成長戦略にほとんど見るべきポイントはない。

 確かに、黒田日銀総裁の思い切った金融緩和策によって、それまでの円高傾向の風向きを変え、1ドル=70円台の円高から125円台まで円安に持っていった。

 円安傾向が定着することで、自動車をはじめとするわが国の主力輸出企業の収益状況を大きく押し上げた。それに加えて、円ベースの海外子会社の収益を膨らませて、連結ベースの企業業績を大きく改善させた。

 その円安効果はかなり大きい。大手企業経営者の一人は、「多くの企業が最高益を上げているが、このうち半分は円安のおかげと考えた方がよい」と指摘していた。

 また、異次元の金融緩和策で潤沢な流動性=お金が市中に供給され、そのお金の一部が株式市場に流れ込み株価を押し上げた。日経平均株価で見ると、安倍政権誕生の前の2012年11月に8661円だったが、今年6月には2万900円台手前の水準まで上昇した。アベノミクスは、2年半の間に株価を約2.4倍に押し上げたことになる。

 しかし、肝心要の成長戦略に見るべきものがほとんど見当たらない。金融政策や財政政策の発動で一時的に景況感を回復させたところで、それが長期間続く保証はどこにもない。むしろ、金融・財政政策の効果は、「風邪をひいて頭が痛いので、鎮痛剤を飲む」という一時しのぎ、単純な弥縫策と考えるべきだ。

 最も重要なポイントは、経済が風邪をひかない体力をつけることだ。そのためには、労働市場の改革や社会保障制度の改革など、痛みを伴う改革を進めることが避けて通れないプロセスだ。問題は、そこにほとんど手が着いていないことだ。

安保よりも経済の立て直しを
安倍政権と国民意識にある齟齬

 ここまでの安倍政権の政策運営を見ていると、同政権が念頭に置いているのは安全保障問題のように見える。安全保障に関する仕組みの整備が重要であることに間違いない。しかし、それと同じ程度に重要なことは、経済を立て直すことだ。

 1990年代初頭、未曽有のバブル崩壊を経験し、その後、わが国経済は長期低迷の長いトンネルに突入した。その間、デフレが進行し、企業経営者も国民も“縮み”指向の罠に入ってしまった。

 わが国は既に、本格的な人口減少・少子高齢化の局面に入っている。そうした状況で、これからも“縮み”指向を続けていくと、いずれ経済基盤はさらに沈下し、世界の経済一流国のカンバンを下ろさざるを得ないことも懸念される。

 経済の基盤の沈下がさらに進むと、医療や介護、年金などの制度を維持することが難しくなる。その背景には、財政状況の悪化がある。今まで、国内の個人金融資産の蓄積によって、国債の消化に問題が顕在化しなかった。

 しかし、国内の個人金融資産は無限にあるものではない。また、日銀が国債を一手に買い上げているような現状を永久に続けられるものではない。今の状況は、いずれ終局を迎えることは言を俟たない。

 国民にとって、わが国が抱える経済の将来的なリスクは、安全保障と同じか、あるいはそれ以上に関心の高い問題なのである。その意味で安倍政権の政策運営の優先順位は、国民の意識と徐々に齟齬が生じている。

 わが国が民主主義に基づいてシステムを取る以上、政権は国民の支持なくして存続することはできない。安倍政権は、その基本理念に立ち返って政策運営をすべきだ。

一時しのぎの策ではなく
長い目で見た改革に踏み込む必要

 最近の安倍政権の行動を見ていると、もう一つ気になるところがある。それは、賃上げのプロセスや、官製相場と言われるほどの株式市場への介入姿勢だ。

 基本的に企業の給与は企業自身が決めるべきで、政府が決めるものではない。企業が業績などを総合的に判断して、最も適切と考えられる水準に落ち着くのが自然だ。株価も、投資家が自由な判断に基づいて売買を行い、それに基づいて決定される要素だ。

 政府が個別企業の経営者を官邸に呼び賃上げを要請すれば、一時的に賃金水準は上昇するかもしれない。あるいは、公的資金で株式を購入すれば、短気的に株価は安定することだろう。しかし、そうした状況が長期間続くことは考え難い。

 賃金を無理やり上げて収益状況が悪化すると、中長期的には企業の存続が危なくなることも考えられる。あるいは、公的資金が株を押し上げたとしても、海外投資家が割高な株式に売り浴びせを仕掛けることも想定される。

 今、わが国が必要としているのは一時しのぎの弥縫策ではなく、長い目で見て経済にメリットをもたらす社会の仕組みの改革などだ。それはときに大きな痛みを伴うことになる。

 それでも、そうした改革を行うことによって、長い目で見ると、国民は経済の回復という果実を手にすることができるはずだ。安倍政権が相応の高い支持率を維持している間に、そうした痛みを伴う改革にまで進んでほしいものだ。

 かつて、1990年代初頭に東ドイツと統合したドイツには、共産党政権下で停滞した東ドイツ経済に足を引っ張られる格好で経済状況が大きく低下した時期があった。当時は、「ドイツはヨーロッパのお荷物」と揶揄されたこともあったほどだ。

 しかし、その後、労働市場などを積極的に改革し、経済全体の効率を上げることを目指した。それが今日のドイツ経済の礎になったと言われている。それは、わが国にとって格好のモデルケースの一つと言える。わが国の政権も、長期的視点に立った経済運営が必要になるはずだ。

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