「やっと読み終えた」というのが正直な感想。ヲタの引きこもりメンヘルが趣味の世界と日常生活を書き募るブログといったところだ。
文は、主人公(デ・ゼッサントという名の貴族)が、財産を投じて社会から孤立して生活するための、ユートピアを築こうとするところからはじまる。家、部屋、調度、本、音楽・・・への偏執的なこだわりをひたすら書いている。同時代の作家や作品への容赦ない批判などは、当時の人間にとっては面白い読み物だったのかもしれない。
ただ、彼のような生き方。社会との交流を絶って、自分の構築するユートピアに籠もって生きたいという願望は分かる。十分な財産があって、仕事をしていなくても死ぬまでの生活ができるなら、このような生活をしていても問題はない。隠遁者とか世捨て人とかいうカテゴリーで取り扱われていたのも、こういった人だろう(虎になっちゃうケースもあるけど)。そういう意味で言うなら、引きこもりのバイブルと言ってもいいかもしれない。
今のテクノロジーでこれを書き直したらどんなになるか。案外平凡かもしれない。滋養浣腸なんて使わなくてもいいだろうし。劇場へ行くのが苦痛で音楽を楽しめないなど言うこともない。世界中から、さまざまな音源を入手し自室で楽しむことは今なら可能だ。ただ、彼はMP3プレーヤーはもちろん、CDすら使わないだろう。ビニールのレコード盤(しかも、古い厚くて重いやつ)を探すのだろう。もちろん、プレーヤー、アンプ、スピーカー、コード類に至るまで数十ページに渡って吟味しなければならない。
ただ、外界との交信を絶つのだから、ネットの取扱は難しい。掲示板やニュースサイト、ポータル、企業サイトとかを一切アクセスせずに、必要な情報へのアクセスだけを行えばいいか。このへんも、衰弱した彼の神経を逆なでするサイト批判が繰り広げられる余地があるかもしれない。
子宮回帰願望をハイテクでサポートする、子宮羊水型リラクゼーション機器も使ってほしいところだ。MATRIXで人類の肉体が生かされている心地よさそうなベッドを自ら作り出すのだ。
ちなみに、翻訳は澁澤龍彦。1962年の翻訳。購入は、右の写真をクリックしてどうぞ。