プラシーボ効果を科学する(wired)

 前に、「”>脳はすすんでだまされたがる マジックが解き明かす錯覚の不思議」で見たように、人間の脳は外部からの情報を取捨選択することで活動コストを下げようとする。注意力欠如は「集中」した状態にこそふさわしいことを学んだ。大脳皮質は新しい脳で人間的な高度な活動を司っているが、代謝や防衛反応といった意思でコントロールされていない反応もこの思想に支配されているらしい。

 まあ、「気の持ちようで毎日がサンデー。世界がまるで違って見えるぜ(サヨナラ好きになった人)」というフレーズにもあるし、「病は気から」とか「鰯の頭も信心から」といった表現はプラシーボ効果を経験的に知っていたということだろう。応援や励ましなど、非論理的とされる行為にも、生物学的な合理性をもった行動だったといえるのかもしれない。周囲の声援を力に変えて大きな敵に立ち向かう姿を美しく感じるのもこのメカニズムの一種なのかもしれない。

 感情といった本能に近い部分の脳の作用がキラーT細胞や白血球を活性化させる(ちがうか?)というのは興味深い。脳が一々情報収集や判断をするコストを下げることで、意識を集中させるのと同様に、免疫システムを起動せずに済むのならできるだけ起動せずにおいて、援軍があったり体力の消耗を防げることがはっきりした時に一気に免疫システムで回復を図る戦略をとっているということだろうか。

 仕事が一段落したら風邪をひいたとか、旅先から帰ってきたら疲れが出て寝込んだというのは、実はイベントの後になってトラブったのではなく、イベント中に免疫システムが発動せず、回復に体力を使える状態になったことを確認した脳が一気に片を付けるために免疫システムを稼働させたと考えられる。

 小さな子供が道に迷っている時には泣かずに必死に家を探して家族を見た瞬間に泣き出すのも似ているのかもしれない。そもそも、泣くのは余裕が有る時だけだ。

プラシーボ効果の謎を進化論が説明する « WIRED.jp
“Rough days” BY bayat (CC:BY-NC-SA )

なぜ薬だと偽装されたドロップが、重病でない病人を回復させることができるのか(少なくともそう見える)を説明するのは簡単ではない。プラシーボ効果とは、ある患者に対する処置が、体に対する実際の効果よりもむしろそれに対する期待によって好結果をもたらすというもので、実際のところ謎に包まれている。

しかし、「Evolution & Human Behaviour」に掲載されたある論文によると、プラシーボ効果は、ほかでもない進化のメカニズムで、コスト/利益の単純な分析によって起こるものだという。

実際のところ、外的な条件(まさに丸薬と思い込まされてドロップを飲んだときのように)は、患者を安心させることによって、免疫システムの仮想的なスイッチを入れているようだ。つまり、このシステムが活性化するのは、大きな出費を要する体の防衛を、大きなエネルギーコストなしに実行に移すことにOKを与えるサインが、外部から届くときなのだ。このシステムは、外部からの「大きな出費を要する体の防衛を大きなエネルギーコストなしに実行できる」というサインが届いた時に活性化する。(引用者)

ブリストル大学のピーター・トリマーがたどり着いた結論はいくつかの観察の結果であり、動物も対象としていた。例えばこの科学者は、キャンベルハムスターにおいてプラシーボ効果に似た現象を観察した。小さな感染症に対する免疫反応が、単に飼育状況を変えるだけでスイッチが入る、というより増強されるのだ。特に、日光に当たる時間を延ばしたとき、すなわち冬の状況から夏の状況に移ったときに。

実際、この場合、「New Scientist」が伝えているように、ハムスターには、免疫システムのスイッチを入れることのできるサインがセットされている。しかし、なぜこのサイン自身はもっと早くスイッチが入らないのだろうか? そして、治療が事実上何の有効成分も必要としないのに、なぜプラシーボ効果を受ける人の心の意のままにスイッチを入れられないのだろうか?

トリマーによれば、その理由はこうだ。免疫システムを働かせることは、エネルギーの出費を必要とする。だから感染症が本当に危険になるまでは、休眠させておく方がよい。サインを待っているのだ(ずっと前に、元ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの心理学者、ニコラス・ハンフリーが発表した考えだ)。もし、これが嘘であるとしても。

ハムスターにおいては、保証のサインは光だ。日がより長く続くことは夏を意味する。従って、より多くのリソースがある。このため、免疫システムのような出費のかかる機構を危機に陥れる危険がより少ない。これに対して、人の場合のメカニズムはこうだ。薬(実際は水やドロップ=プラシーボ)が病気と闘い、免疫システムが多くの労力なしに勝者となることを可能にしてくれる。要するに、身を守っているのだ。

従って、患者(もしくはハムスター)の、環境条件に対する期待に基づいたメカニズムなのだろう。これにより、理想的条件でのみ免疫システムを稼働させるのだ。

パラドックスのように見えるかもしれない。しかし、トリマーと同僚たちによって展開された数学的モデルによると、困難な条件で生きる動物は、もし免疫反応をセットしなければ、より長く生きるだろう(そしてより多くの子をもつだろう)。反対に、有利な条件では(より早く回復できるときには)、動物にとっては防衛のスイッチを入れることがより好都合となる。

しかし、どのように機能するか、そしてなぜプラシーボ効果が存在するかを知るためには、さらなる研究が必要だろう。というのも、プラシーボ効果にはさまざまな反応が存在するからだ。

TEXT BY ANNA LISA BONFRANCESCHI
TRANSLATION BY TAKESHI OTOSHI

WIRED NEWS 原文(Italian)

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