どうやら薔薇十字団の理想達成のために、彼は局外者から見れば謎のような、複雑な行動をしていたようだ。フランスを去る前に、ある謎の犯罪事件について、彼はルイ十五世から質問されたことがあった。この犯罪事件の真相は、伯爵だけが知っているという、もっばらの噂だったからである。そのとき、伯爵はこう答えた、「陛下が薔薇十字団に加わってくださいますならば、すっかりお話いたしましょう」と。
それでもルイ十五世は、薔薇十字団員になることを承知しなかった。もしこのとき、フランス国王がサン・ジェルマンの提案を受諾していたら、革命によつて、ブルボン王家が転覆することも、あるいは避けられたかもしれないのである。薔薇十字団は、決して革命を望んでいたわけではなく、ただローマ法王に対抗して、ドイツの宗教的指導権を確立し、諸王家をして平和的に共存させようともくろんでいただけなのである。
ルイ十六世に対しても、伯爵は、たびたび熱心に薔薇十字団加入をすすめたが、ついに受け入れられず、身の危険を感じてドイツヘ逃がれ、錬金術愛好家のヘッセン・カッセル伯爵邸に落着き、ついにそこで死んだと伝えられる。