マゾヒズムとはかなり趣が違うけれども、あの有名なフランスの大女優、サラ・ベルナールの奇怪な趣味について、次にご紹介しよう。これはネクロフィリア(屍体愛好)とフェティシズムとの結びついたもので、やはり性的倒錯の臭いが濃厚である。
サラ・ベルナールの私生活を暴露した、彼女の同僚の女優マリー・コロンビエの語るところによると、この大女優は、葬式や屍体に関係あるものが大好きで、パリの医学校の付近をしらみつぷしに歩きまわって、一ダースばかりの人間の頭蓋骨を手に入れ、これを自分の部屋に飾っておいたという。そればかりではなく、わざわざ葬儀屋に注文して、内部に繹子の布地を張った、黒檀と銀の豪著な棺をつくらせて、自分がそのなかに入り、死んだつもりになっているのを好んだという。
初めてサラが棺のなかに横たわって、男友達を自宅に呼んだとき、何にも知らずに呼ばれてきた連中は、ぎょっとして戸口に立ちすくんでしまった。部屋は薄暗く、蝋燭の明りがついていて、棺のなかをのぞくと、黒い嬬子のクッションの上に、真白な着物を着たサラが、かたく目をつぶり、身動きもせず、まるで本当の死人のように蒼白な顔をして、横たわっているのである。女優だから、メイキャップはお手のものだ。
こうして、しばらくすると、サラは復活したラザロのように、棺のなかから立ちあがり、恐怖の表情を浮べて見守っている男たちを眺めて、ぷっと吹き出すのだった。それから、「誰かあたしと一緒に、この棺のなかで寝てみたい人はいない?」と男友達に誘いかけるのだったが、さすがに誰も、すすんで寝ようと言い出す者はいなかった。すると彼女は、大いにお冠りで、「それじゃ、あんた方はもう、あたしを愛していないのね?」と言い出す始末。ようやく最後に、勇気のある男が、彼女と一緒に棺のなかに入ってはみたものの、この新趣向のベッドでは、彼の欲望の焔はそれほど激しく燃えるわけにはいかなかったという話である。