サン・ジェルマン伯爵が姿を消す前に、最後に二人の友人に語ったという言葉は、謎のような不思議な言葉である。
「私は君たちと別れなけれはならない。たぶん、もう一度会えるだろう。まずコンスタンティノーブルへ行くのだ。私を必要としている人たちのためにね。それから英国へ行って、次の世紀のために、二つの発明の準備をしなければならない。汽車と汽船だ。季節は少しずつ変るだろう。まず春がきて、それから夏だ。私にはそれが分っている。天文学者も気象学者も、何も解ってやしないのだ。私の言うことを信じたまえ。私のように、ピラミッドを研究する必要があるのだよ。今世紀の終り頃、私はヨーロッパを去って、ヒマラヤ地方へ出かけるつもりだ。少し休みたいのでね。八十五年後の今日、もう一度私に会えるはずだ。では君たち、さようなら……」
こうして彼が最後の言葉を語り終えると、突如、一天にわかに掻き曇って、轟然たる雷雨が起った。二人の友人がびっくりして顔を見合わせていると、ふいに伯爵の姿は見えなくなってしまった、ということである。