まさに放浪の天才ともいうべき人物で、同じ町に三、四カ月以上は決して留まらなかったというから、見事なものである。それにしても、あれほどカトリックや保守勢力に憎まれ、多くの敵を周囲にもちながら、彼がヨーロッパ中の貴族や豪商の家を転々と渡り歩き、どこへ行っても厚遇されたという事実は、いかにもふしぎである。むろん、これは、一つには、彼の医学上の技術がいかにすぐれ、いかに彼が世間で必要とされていたかを示すものだろう。と同時に、パラケルススは何らかの秘密結社に属していたのではなかろうか、という疑問も生ずるのだ。 |