そのころ、やはり諸国を放浪していた色事師のカザノヴァが、南フランスのエクス・アン・プロヴァンスという町の旅館で、偶然、この若き日のカリオストロ夫妻に会っている。有名なカザノヴァの『回想録』によれば、そのときカリオストロ夫妻は巡礼者の服装で、手に杖をもち、鍔《つぱ》のひろい帽子をかぶっていた。夫は二十五歳くらい、美しい妻はまだ十八にもならないくらいで、いかにも貧しげな様子であったが、しかし仲睦まじげであったという。カザノヴァは二人に興味をおぼえ、夕食に招待して、いくらか金も恵んでやった。−やがて十年以上もたってから、カザノヴァは「あれが有名なカリオストロだったのか」と、当時の若い二人の姿を懐かしく想い出すのである。 |