ルイ王朝の権威を揺るがし、大革命の序曲となったと言われている例の「首飾り事件」に、不幸にもカリオストロが捲きこまれたのは、一七八五年のことである。この複雑な事件の経過は、煩わしいから省略するけれども、カリオストロがそのためにパスティーユ監獄に拘留され、その挙句、まるで英雄のように、そこから出てきたことは前に述べた通りである。しかし宮廷人の嫉妬や非難や中傷は、相変らず、この得体の知れぬ怪人物の上に集まり、ために彼はロンドンに亡命しなければならなくなる。が、やがてロンドンにも居たたまれなくなり、今度はスイスのバーゼルに落ちのびる。どうやら「首飾り事件」を境として、彼の運勢は下り坂になるようである。 |