ノストラダムスのいちばん有名な予言は、当時のフランス王家に関するもので、アンリ二世の事故死(槍の試合で片眼を突き刺されて死んだ)や、その三人の王子の不吉な運命をぴたりと言い当てたものであるが、このエピソードは前にも書いたことがあるから、ここでは割愛しよう。彼の予言の伝説は、じつに驚くべきもので、近代でも現代でも、多くの学者が彼の予言能力をまじめに信じこみ、彼の奇怪な「予言集」に集められた難解な四行詩を研究しては、いろいろな解釈を下している有様なのである。
ノストラダムス研究家のなかには、この十六世紀の天才的な予言者が、フランス革命やルイ十六世の死や、ナポレオンの権力奪取や没落や、さらには二十世紀の第一次世界大戦やスペイン戦争や、ロシア革命やヒットラーの死まで予言していると主張する者もある。彼の四行詩をいちいち引用しては、尤もらしく解釈しているのだ。なかにはこじつけのような解釈もあり、いささか眉つば物の感もないではないが、堂々たる学者が大まじめで研究しているのだから、一概に眉つば物ときめつけるわけにもいかない。