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ここでぜひとも引用しておきたいのは、次の四行詩である。それは第二巻第九十番の作品である。
ハンガリアの支配は決定的に変り 法律は務めよりもきびしくならん 大都市には怨嗟の声がみちみち カストルとポリュクスは闘争せん
お分りだろうか。これは一九五六年、ソヴィエトの圧制に抗して立ちあがったブダペストの民衆の反乱、いわゆるハンガリー事件を予言しているのである。ソ連軍の戦車の前に、反乱はあえなく消え去ったが、この事件が全世界にあたえた影響は甚大だった。 ただ一つ、曖昧なのは最後の詩句である。「カストルとポリュクス」は、ギリシア神話に出てくる双生児の兄弟の名であるが、いったい、この兄弟問の闘争とは何を意味しているのだろうか。カダルとナジの対立であろうか。それともロシア共産党とハンガリー労働者党との、ひそかな反目であろうか。なにしろこの事件は、まだわずかに十数年前のことなので、今後どのような隠された事情が明らかになるか知れず、決定的な判断を下すことは極度にむずかしいのである。