P37 政治家もこの効果を充分心得ている。彼らは有権者が自分の聞きたい内容だけを聞くことを承知の上で、どちらともとれるあいまいな言い回しを使い、ときには矛盾した言葉まで口にする。たとえば、こんなぐあいだ「私たちは過去に学ぶと同時に、前進する勇気をもたねばなりません。働く側と雇用者双方の権利を認め、困窮者を支援しつつ、民が官に依存することのない方向を目指すのです」

P40 見知らぬ相手に、すべてを見抜かれたと思わせる方法
相手の気持ちをくすぐる:相手が聞きたいと思っていることを話す。
どちらともとれる言葉を使う。人は一つの性格面とその正反対の面を誰かに指摘されると、自分が納得できる言葉にだけ注目する。
表現はあいまいに:「あなたはいま、なにか悩みがあるようですね。ご家族か、親しいお友だちの問題でしょうか?」
p53
探りを入れる:まずは、話題の幅を広くとり、相手の反応を見ながら話を絞り込んでいく。あなたの言葉に対して相手が無反応だったら、その話はおしまいにしてべつの話題に移る。相手がうなずいたり、微笑んだりしたら、その話題を掘り下げる。
誰にでも当てはまりそうなことを口にする:まずは、大多数の人にあてはまるようなことを告げる。
占いのマニュアルには、占うときは年代に応じて悩みの内容が異なることを念頭に置くようにと書かれている。具体的には、十代から二十代はじめにかけては自分のさまざまな可能性を試そうとし、セックス体験を求めたがる。二十代なかばから三十代なかばにかけては安定指向が高まり、出世や収入、落ち着き場所の確保などに関心を強める。三十代なかばから四十代なかばにかけては、親の健康状態、子育ての不安や大変さに悩むことが多い。四十代なかば以降は自分自身の健康状態、色あせてしまった夫婦関係、孫に対する興味などが話題の中心になる。
”抜け道”を用意しておく:占いに失敗はないことを、お忘れなく。たとえ占いがはずれた場合も、あなたには頼もしい安全ネットが二つ用意されている。
一つは、はずれとされた話の内容を広げること。「今私が言った言葉は、あなたに直接あてはまるのではなく、あなたのご家族か職場の仲間、またはお友だちの誰かに・・・」
最後に、たとえすべて失敗しても、つぎのような頼もしい目印があなたの味方になってくれる。
・相手の着ている物が小さすぎたり、大きすぎたりしている。ベルトに古く汚れた穴が目立ち、締める場所を移動したことがわかる。という場合は、当人が最近太った、あるいは痩せた可能性がある。

P57コールドリーディングの手法を理解すれば 、占い師が科学的な実験で能力を実証できない理由も見えてくる。客から遮断されると、占い師は相手の服装やしぐさから情報を集めることができない。そして実験の参加者たちに全員の占い結果を見せてしまうと、参加者は占い師の言葉にみずから意味づけする機会をあたえられていないため、自分に対する占い結果と、ほかの参加者に対する占い結果とを識別できない。そこで占い師の日頃の実績はもろくも崩れ、事実が浮かび上がるー彼らの成功は心理学のみごとな応用のおかげであり、超能力のせいではないのだ。この裏技を知ると、占い師に実際に見てもらうときや、テレビで占いを目にした時に、受け取り方がこれまでとはがらりと変わってくるはずだ。音楽ファンがモーツァルトやベートーヴェンの音色を楽しむように、あなたは占い師の探りの入れ方や、話の広げ方、客自身に考えさせる話法などに耳を傾けはじめるだろう。

幽体離脱の真実
P90 人間が脳の産物であり、頭蓋の外側には存在できないからだ。・・・自分が自分の体の中にいるという意識は、知覚情報を頼りに脳がたえず作りあげているものだとわかった。・・・正しい信号が奪われたとき、脳には自分の現在地がわからなくなるのだ。この迷子になった感覚と、宙に浮かんでいる鮮明な空想が合わさると、あなたの脳は自分が体を抜け出して宙に浮いていると思い込む。

脳はあなたが目覚めている間じゅう、「自分の現在地は?」という大切な問いに、無意識下で反射的に答えを出そうとする。そうでないと、あなたは自分をいま座っている椅子の一部だと感じたり、次の瞬間には床だと思ったりしてしまうだろう。この脳の働きのおかげで、あなたは常に自分が自分の体の中にいるという、安心感が持てる。体外離脱体験は超常現象ではなく、魂の存在を示す証拠でもない。だがこの現象はあなたの脳と体の日常的な働きについて、それよりはるかに驚くべきことを明らかにしているのだ。

p124 超能力で人をあざむく原則の最初の4つー相手が見たがっているものを見せる、人の虚をつく、自分の影を消す、同じことを繰り返さないーは、自分が披露するトリックのカラクリを、客に悟らせないためのものだ。第五の原則ー肝心な部分から目をそらさせるーは、実際に起きたこと客に正しく記憶させないための手段である。意識しない間に、重要なディテールが客の脳裏から消える。そして客は、自分が何を見たのか、はっきり説明できない状態になるのだ。

p128人は誰でも、自分を正確な目撃者と考えたがる。だが実際には、私たちは目の前で起きた出来事を無意識のうちに誤って記憶しがちであり、大事なディテールを見過ごすことが多い。
私たちの脳は、自分の置かれている環境の中で、どの部分に最も注目すべきか、目の前にあるものを認知する最良の方法は何か、たえず模索を続ける。大抵の場合、脳の判断は正しい。だからこそ人は効率よく効果的な方法で、世の中を的確に認識できるのだ。だが時折あなたは、この優秀な脳の働きをつまずかせるものに遭遇する。知覚の錯覚は、あなたの目を完全に欺く。
そして”超能力者”は、マジックのごく初歩的なトリックで、あなたに奇跡を目撃したと思わせる。彼らはいかさまの可能性を考える隙を与えないよう、あなたの虚をつく巧妙な手を使い、トリックの証拠を即座にあなたの記憶から消し去る。

140 スピリチュアリズムは、最もたちの悪いいかさまです・・・完全に抹殺されて欲しい。ケイトと私が明かした真実がスピリチュアリズムの息の根を止めることを望みます(フォックス姉妹)

147彼は研究室にこもって、奇妙な束をいくつかこしらえた。いずれも内容は、糊で貼り合わせた葉書大のボール紙五枚だった。使われた糊は特別仕様で、「動かされてもお五枚の紙がバラバラになることはないが、連続した力がかかると徐々に全体がたわむ」程度の粘着力を持つようにつくられていた。ファラデーはそれらの束をテーブルにしっかり固定し、重なったボール紙の側面に鉛筆で二本の細い線を書いた。これで準備完了、いよいよ実験開始。参加者めいめいが束の上に手を乗せると、 霊がテーブルを左方向へ動かした。自分が用意した束を一瞥しただけで、ファラデーにはテーブルが動く謎の答えが解けた。

ファラデーの実験に参加した人々はテーブルが動くと思い込んでおり、知らずしらずのうちに手と指をほんの少し動かして、自分の思いを現実に変えていた。その動作は完全に無意識の働きであるため、当人はテーブルが動き回るのに驚愕し、霊の力を信じたのだ。

152 長期にわたる実験の中で、ジャストロウは記録用のペンと紙を被験者の目から隠したうえで、彼らに3つの行為を想像してもらったー自分がある行動をする、部屋の中のあるものを見つめる、部屋の1カ所を思い描く、である。被験者は意識しなかったが、彼らが特定の方向や場所について想像するだけで、ジャストロウが作成したガラス製の転写版が動いた。ファラデーがテーブル・ターニングの謎を解いたように、ジャストロウは同じ作用がウィジャ・ボードにも働くことを暴いた。ウィジャ・ボードの信奉者は死者と語り、悪魔と交信していたわけではなかった。彼らの話をしていた相手は、自分自身だったのだ。
その後の研究で、「観念運動」と命名されたこの不思議な行動は、テーブル・ターニングやウィジャ・ボードに限らないことが判明した。

157

ウェグナーは、「反動効果」と呼ばれる不思議な現象発見した。何かについて考えまいとすると、かえってそのことばかり考えてしまう現象である。ふつうの日常では、人は上手に自分の注意を逸らせて、頭の中から無用な考えを追い払う。だが、特別に何かについて考えないように言われると、「あ、まずい、自分は考えてはいけないことを考えているのでは?」と自問を繰り返すようになり、考えるなと言われたことを逆に思い出す結果になる。
ウェグナーの反動効果は、様々な場面で働く。不幸な出来事を忘れなさいと言われると、かえってその出来事を忘れられなくなる。ストレスになることは考えないようにと言われると、逆に不安感が強まってしまう。そして不眠症の人に眠れなくなるような事は考えないようにというと、かえって眠れなくなる。
166
ウェグナーは、人によって「脳が決断を下し、その決断に基づいて意識的な構造が作り出される」というメカニズムがうまく機能しない場合があると考えた。脳が行動について決断を下し、しかるべき筋肉にメッセージを送るのだが、決断を下したのは「自分」だという意識を作り上げるのに必要な信号が、うまく送られないのだ。その結果自動筆記では、筆記が行われても筆記者は書いているのが自分だと思えない。ウェグナーは、この現象が自由意志の根本的な性質について、貴重でユニークな手がかりを与えると考えている。この発作が起きている間にふとわれに返った筆記者は、自分が自分のロボットになったような感覚をもつ。自動筆記は怪しげな見せ物ではなく、私たちの日常行動の奥に潜む真実を表すものなのだ。

1853年に、マイケル・ファラデーはテーブル・ターニングの謎を調べた後、最後にこう述べている。「この仕事をいささか恥ずかしく思う。今の時代に・・・こんな調査を必要とされるべきではない」

185フュースリの筆で書かれた夜中の悪夢体験が、妖しい超常現象としてもてはやされたとしても、まさか二十世紀までそのまま生き残っているはずはあるまい・・・ところが最近の調査によると、回答者の四割ちかくがまったく同じパレットに体験をしているのだ。ふと目覚めると胸に重いものがのしかかっているのを感じ、邪悪なものの気配がし、闇の中に不気味な姿を見るという。こうした逸話は、魔物や幽霊、あるいは異星人までもが存在する証拠として解釈されがちである。だが解釈に差はあるものの、一つの共通しているー現代においてもなお、それが背筋の寒くなる、忘れがたい体験だという点である。

脳のからくりは、あなたに幽霊の残像を見たと思い込ませることもあるが、邪悪なものと遭遇したと思わせることもある。睡眠の第一段階からでレム睡眠へと移行する間に脳が混乱し、第一段階の半睡半醒時の幻覚、性的興奮状態、無段階の麻痺状態を同時に体験する場合があるのだ。この恐るべき組み合わせの結果、あなたは重いものが自分の胸の上に乗って動けなくなったように思い、存在を感じる(それが見えるように思う場合もある)。そして、自分が奇妙な性交を行っているような感覚を抱く。

何世紀も前から、自分が悪魔や幽霊や異星人に襲われたと思い込む人はかなりいた。睡眠学者は、こうした体験の裏にある真実を解き明かしたと同時に、あなたの寝室から邪悪なもの追い払う最良の方法も見つけ出した。当然のことながら、その方法は祈祷を唱えたり、聖水を撒いたり、大掛かりな悪魔払いに行ったりすることではない。実のところ、方法はいたって簡単である。指を屈伸させるか、まばたきするだけでいいのだ。ちょっとでも体を動かせば、あなたの脳はレム睡眠から睡眠の第一段階へ切り替わる。そしてあっという間にあなたははっきり目覚め、現実の世界へ無事戻ることができる。

210
スミスとフィルビーはラトクリフワーフに司祭の幽霊が出る話を作り上げた。
その一帯にいかなる幽霊話も存在しないことをしっかり確認した上で、フランクは自分がこしらえた物語を「人と神話と魔術」の最新号に載せ、自分もフィルビーも実際にはその幽霊を見ていないと書いた。
三年後、BBCのドキュメンタリー番組がこの話を取り上げ、ラトクリフワーフの司祭の幽霊をドラマ化して紹介した。そして同番組では、その幽霊を見たという証人探しを始めた。
証人はなんなく見つかった。まず、その付近に住む女性が司祭の幽霊を見たと名乗りを上げ、司祭は白いシャツにマントを着て、灰色の長い髪をなびかせていたと語った。高位の聖職者の幽霊はかなり紅色のようで、その女性は夜中に服を脱ぐ時、司祭からのぞかれているのを度々感じたという。
ラトクリフワーフの司祭の幽霊は、フーランの説を鮮やかに実証している。幽霊の出没には本物の幽霊も、出来事を記録する壁も地下水も、超低周波音や微弱な磁場も必要がない。必要なのはただ一つ、暗示の力だけだ。
212
1940年代、心理学者のフリッツ・ハイダーとメアリー・アン・ジンメルは、有名な実験でバレットの説に見事な裏づけを与えた。ハイダーとジンメルは短いアニメを製作した。 大きな三角と小さな三角と円が、画面を出たり入ったりする映像である。この意味のないフィルムを参加者に見せた後、その内容を語ってもらった。すると大半の参加者は、即座に漫画の内容を物語にして説明した。例えば、円は小さな三角に恋をしているが、大きな三角が円をさらって行こうとする。だが小さな三角が奪い返し、小さな三角と円はめでたく結ばれる、といった具合である。
つまり、人は何もないところにエージェンシーを見るのだ 。バレットは同じ考え方で、神や幽霊や鬼の存在も説明できると考えている。彼の説によれば、大抵の人はある種の出来事を無意味なものと考えず、目に見えないものの仕業と考えたがる。例えば、思ってもいなかった幸運に恵まれると、天使の働きだと考え、病気で倒れると悪魔のせいと思い、ドアがキィッ鳴れば、白い衣をまとった幽霊がいると思う。
バレット説正しいとすると、幽霊は迷信から生まれたものではない。死者から甦った霊でもない。いずれも単に、人の行動を苦もなく意味づけられる優秀な脳をもったがゆえに、私たちが支払わねばならない代償なのだ。
というわけで幽霊は、私たちの日常に不可欠なものともいえそうだ。

230
研究者たちは賢いハンス交換に対して4用心が必要だと悟り、実験を行う時に条件の一部を被験者と実験者の双方に伏せるようになった。現在ではその”二重盲検法”が、有効な科学にとっての黄金律になっている。それもすべて、計算のできる馬から始まったことだった。
ビッショップも賢いハンスも、人の心が読めるかのように見えた。だが実際には、周囲の人たちが無意識に発する信号に反応していたにすぎなかった。そして読心術師の中には、人の思考をコントロールして自分の意のままに動かそうとする者もいる。

245
ジム・ジョーンズのような人物が行うマインド・コントロールには、催眠術による昏睡状態や、暗示にかかりやすい人につけ込む行為は含まれていない。そこに働いてるのは4つの原則だ

1つは、段階的に少しずつ帰依の度合いを深めさせていくこと。カルト教団のリーダーは相手に対して最初の一歩を踏み入れると、次第に要求を強めていく。そしてふと気づくと、信徒はどっぷり教団にはまり込んでいる。 2つ目は、グループから不協和音を全て排除すること。懐疑的なものを排除し、グループは次第に外界から孤立していく。そして3つ目は奇跡の力。カルト・リーダーは不可能を可能にするかのように見せかけることで、自分は神と直接つながっている、だから疑いを抱いてはならないと人々に思い込ませる。四つ目は、自己正当化である。人に奇妙な儀式や苦痛を伴う儀式を強いるグループは、敬遠されるはずだと思うかもしれない。だが実際には、その逆である。これらの儀式に参加した信徒は、自分の苦しみを正当化するために、このグループには価値があると前向きにとらえるのだ。

教団が社会から孤立していなかったら、こうした手法の効果を排除することも、やり方が狂っていると諭すことも、大きな悲劇を防ぐことも可能だったのではないか。そう考えられたなら、素敵だろう。だが、カルトの世界を探る旅で私たちが最後に見たものから判断すると、それはカリスマリーダーの魔力に捕らえられた人たちと同様の、甘い考えでしかなさそうだ。

246
洗脳か身を守る方法
マインドコントロールは、簡単に退けられる。次の4つの危険信号に注意すればよいのだ。
1自分は今、”段階的要請法”の罠にはまっていないだろうか。あなたが相手にしている団体ないし個人は、あなたの時間が手助けを最初にほんの少し求め、徐々にその要求を増やしてはいないだろうか。答えがyesである場合。あなたは相手の要求に本心から従いたいだろうか、相手に操られていないだろうか。
2異論を認めない団体には、気をつけたほうがいい。その団体は、あなたを友人や家族から遠ざけようとしていないだろうか。団体の中で、異なる意見やオープンな議論が弾圧されていないだろうか。いずれも答えがYesなら、関わり合いは慎重に考えた方がいい。
3その団体のリーダーは病を癒したり、何かを予言したなど、超人的な奇跡を起こせると言っていないだろうか。どれほど凄いと思える事でも、妄想やまやかしの可能性がある。自分の目で事実を確かめるまで、超常現象に心を奪われてはいけない。
4その団体、苦痛や困難や恥を伴うイニシエーションの儀式を要求してはいないだろうか。こうした儀式は、グループの忠誠心を高めるために用意されていることを、お忘れなく。苦痛を耐えることが本当に必要かどうか、自分に問いかけてみよう。

248
(異星人が救いにくると予言し外れたとき)だがその数時間後、彼女宇は宙人から新しいメッセージが届いたと言い、予言された大洪水は、私たちが世界に光をもたらそうと努力したおかげで起きずに済んだと説明した。フェスティンガーの研究によると、人間には自己の信じていることが現実と一致しないと、現実の方を都合よく捻じ曲げると言う、驚くべき能力が備わっているようだ。

248
キーチの集団のうち、彼女の自動筆記に対する信念を捨てたメンバーはわずか二名で、どちらも最初から深入りをさけていた女性だった。
フェスティンガーは、キーチの信者の多くが尻尾を巻いて彼女から去っていく代わりに、以前にも増して熱心に布教をはじめた点に注目した。予言が外れる以前、集団は広報的な活動さけ、インタビューにも渋々応じる程度だった。ところが事件後は積極的にメディアに接触し、自分たちのメッセージを矢継早に発信した。フェスティンガーはこの不思議な行動を、次のように説明している。メンバーは信仰の正しさを他の人たちに認めさせることで、自分たち自身を納得させようとした。つまり、大勢の人を折伏できたなら、それは信じる価値ものが存在する証拠と考えたのだ。

この章でお話したようなマインドコントロールは、カルト集団の怪しげな閉じた世界に限られたことだと言えたら、いいのだが。それは事実ではない。実は、私たちの日常の様々な場面で、全く同じ説得の原則が働いているのだ。

セールスマンは、売買を成立させるテクニックとして、”段階的要請法を”使う。政治家は異論を唱える者を黙らせようとし、見られたくない情報から人の目をそらせようとする。商売人は、”自己正当化”の原則を縦横に使う。品物に対して支払う金額が大きいほど、客はその買い物正当化しようとして、売り手のいいなりになることを十分承知しているのだ。マリアンヌ・キーチの信者は集団に他の人を勧誘することで、自分自身の信仰に自信を強めた。同様に広告代理店は、ある品物を買った客が、判断は間違っていなかったと自分を納得させるため、同じ品物を友人や同僚にも勧めることを知っている。

原則が働く状況が違っていても、そこに働く心理は全く同じである。マインドコントロールの実践者は、カルト集団が宗教的セクトのリーダーに限らない。私たちの身近に、日常的に存在しているのだ。

253
バーカーはこれらの発見に意を強くして、 1966年に英国予知情報局を開設し予知と思われる体験があれば知らせてほしいと世間に訴えた。それによって自分が悲劇はあらかじめ予測し、未然に防ぐことができると考えたのである。
あいにく、この計画は成功しなかった。予知情報局には一千通ほど予知情報が集まったが、その大部分がわずか6人の人物からの通報だったのだ。
265
まず、アヴェルバンの悲劇があった1960年代にイギリスに住んでいた人を任意に1人選び出し、ブライアンと呼ぶことにする。次に、ブライアンの条件をいくつか設定しておこう。ブライアンは15歳から75歳まで. 60年間毎晩夢を見ると仮定する。1年は365日で60年間だから、ブライアンは1万3,900晩、夢を見ることになる。そしてアヴェルバンの悲劇のような出来事は、 1世代に1度ほどの頻度で発生するが、いつ起きる後からないと仮定する。また、ブライアンはそんな悲劇と関連のある恐ろしい夢を、一生にひとつしか記憶しないと仮定する。
すると、現実に悲劇が起きる前、ブライアンが「悲惨」な夢を見る確率はおよそ2万2,000分の1である。ブライアンが実際にその体験をしたら、驚くのは当然だろう。
だが、ここに少しばかり厄介な問題がある。ブライアンは自分がそんな体験をする確率について考えるとき、非常に自己中心的な見方をするのだ。 1960年代のイギリスの人口は、およそ4,500万人。そして彼と同じような体験する可能性は、誰にでもある。その誰1人をとっても、ある晩「悲惨な」夢を見て、翌日実際にそのことが起きる可能性は、すでに計算したとおり2万2,000分の1 。
すなわち、 1960年代には1万2,000人に1人、つまり一世代につきおよそ2,000人が、正夢体験することになる。このグループの夢について「当たった」と表現するのは、原野に矢を放ち、矢が着地したあと矢を中心にして標的の円を描き、「すごい、当たったじゃないか!」というものだ。
この原則は、「大数の法則」と呼ばれている。頻発する出来事ほど、異常なことの生じる可能性があるという法則である。
予知夢が当たった例ということで考えると、世の中の状況は私たちの想像以上に悪い。ここで私たちが検証したのは、アヴェルバンの悲劇と共通性のある夢を見て不安を抱いた人の話だけだ。現実には、不幸な出来事国の内外でほぼ連日起きている。飛行機の墜落、津波、暗殺、連続殺人、地震、誘拐、テロ行為等々 。そして人は始終不吉な夢を見る。それを考え合わせれば数字はたちまち膨大になり、予知夢と思える体験が生じる可能性は必ずある。
272
誰でも未来の出来事を夢に見る可能性はあるが、 そうした夢が不思議な力で何が起きるかを教えてくれるわけではないのだ。
あいにく、この点を人々に教えたものはなかったようだ。 2009年、カーネギー・メロン大学の心理学者ケアリー・モアウェッジとハーバード大学の心理学者マイケル・ノートンは、夢に未来の予兆が現れるという説を現代人は相変わらず信じているか調査する実験を行った。ボストン駅で、200人ほどの通勤客にアンケートに答えてもらったのである。
内容は、次のようなものだった。自分がある飛行機を予約していた時、飛行機に乗る前日に次の4つのうち1つが起きたとする。
1、政府がテロ攻撃の可能性を警告した。2自分の乗る飛行機が墜落するような気がした。 3同じ路線で実際に飛行機事故起きた。 4飛行機墜落事故の夢を見た。
これら四通りを想像してもらい、どの場合に飛行機の予約をキャンセルするか訊ねたのだ。驚いたことに、予兆的な夢を見たときという回答トップだった。政府のテロ警告や実際に飛行機事故にも増して、夢が不安をかきたてるのだ。

279
人は想像以上にたくさんの夢を見ており、現実と重なったように思える夢だけを記憶する。夢の内容は人を不安にさせるようなものが多いため、未来の出来事と重なる確率が高くなる。一般に信じられている説とは逆に、ほぼすべての人が夢を見る。そこで毎度現れる何百万もの夢の中に、偶然未来を予告する夢もいくつか出てくるだろう。これらの要素を全て省いた状態で実験を行うと、眠っているのは将来のことが急に考えられなくなってしまう。
睡眠の謎には、まだ未解決の部分も多い。だが、 1つだけ確かなことがあるー超常現象を信じたい人たちにとって、睡眠の科学が発見した事実は悪夢であることだ。


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Last-modified: 2013-04-09 (火) 09:31:29