富沢 木実 道都大学経営学部教授

 先日「情報化で変わったこと、変わらなかったこと」というテーマで講演を依頼された。情報化は、当たり前のように進んでおり、私たちの生活は大きく変わってきているように思っていた。だが、いざ、真正面から考えてみると、情報化で何が本質的に変わったのだろうかと考え込んでしまった。今回は、そのうち企業の情報化について述べる。

日米企業における情報化の違い

「情報通信白書」平成15年版に、日米企業における情報化の現状についての記述がある(有効回答数日本1257、米国592)。それによれば、日本は、アメリカに比べ次のような違いがあると指摘されている。

 第1には、人事・給与、経理・会計などの間接部門における情報化が進んでいるが、仕入れ、販売促進、アフターサービスなどの直接部門における情報化が遅れている。第2には、コスト削減、業務効率化のための情報化は進んでいるが、売上拡大、付加価値アップのための情報化はあまり進んでいない。第3には、企業内LANは構築されているが、部門ごとの情報システムの連携が遅れている。

健康診断としての活用の勧め

 実際、日本企業におけるこれまでの情報化は、主に、過去のデータを効率よく処理することに力が注がれてきたようだ。しかし、企業にとって意味がある情報化とは、結果が見えるだけでなく、リアルタイムに企業の今を把握することができることであるはずだ。

 私たち人間にとって、病気になってから大病院で手術するのではなく、病気にかからないように、日々健康データをチェックし、早めに手を打つことが大切である。企業も生き物なので、結果が分かったときには、もう遅い。情報化は、企業の日々の体調を可視化してくれる道具である。

 在庫が溜まっている、どうしてか。消費者からのクレームが増えている、どうしてか。企業は、こうした健康データを読み込むことで、大事になる前に手を打つことが可能になる。それには、直接部門の情報化とともに、部門ごとの情報システムを連携することが不可欠であろう。

対話の用意があるHPは少ない

 最近では、何かコトを始めるに当って、まずインターネットで検索し、情報を得てから判断するのが当たり前のようになってきた。このため、ネット検索にひっかかってこない企業は、あたかも社会に存在しないのと同じこととなりつつある。そこで、多くの企業は、HPを開設し、自社の理念やさまざまなデータを開示するようになった。

 しかしながら、株式公開していない企業の場合、宣伝文句のみが飾られていて実態が見えないことが多い。窓口を設け、問い合わせや苦情に迅速に対応する企業は増えつつあるものの、全体的にみるとまだ不十分である。営業のための問い合わせ窓口(説明書を送ってほしいなど)はあっても、売上につながりそうにない問い合わせや苦情への窓口は設けていないこともある。

ファンに煽られる企業

 インターネットが普及しはじめた頃、流通の中抜きが起こると言われていたが、中抜きではなく、流通業者の向きが変わるのだと言ってきた。メーカーと消費者の間にいる業者は、メーカーの代理人ではなく、消費者の代理人となるという話で、実際その通りになっている。だが実態は、もっと先に進み始めているように思われる。

 たとえば、四国の池内タオルは、中国製品との競争が激化するなか、環境にやさしいをテーマに会社を作り変えつつある。素材に気遣い、ISO14001ほかさまざまな環境基準をクリアするのはもちろんのこと、「グリーン電力証書システム」を利用して、工場で使う全ての電力を風力発電に変えた。ここまで徹底するとマスコミが取り上げるようになり、その番組で使われた「風で織るタオル」というネーミングが消費者の心を捉えた。

 その結果、百貨店のタオル売り場で指名買いが増えるようになったが、当初は取り扱ってくれる店舗が限られていた。そこで、ネット販売をしたところ、自然発生的にファンが生まれたという。

 このファンは、応援者であるとともに、監視者でもあり、同社がちょっとでも環境にやさしいというテーマから外れようものなら叱責するような人々だ。賃加工であった中小企業がブランド品の製造販売に業態転換するには、大変な苦労があるのだが、同社は、ファンに煽られて転換を加速せざるをえなくなっている。

消費者は協働者

 また、ネットプライスが提供しているモバイルコマース「ちびギャザ」には、消費者から、こういうものが欲しい、あれを探してほしいというリクエストが毎日100から150件来るという。同サイトでは、毎週販売商品を入れ替えているが、消費者からのリクエストにできるだけ素早く対応することでリピーターを増やしている。

 これらの事例を見ると、消費者は、お客様という企業に相対する人ではなく、一緒に企業を作りあげる担い手、企業という御輿の共通の担ぎ手といえる。日本企業のHPに問い合わせ窓口が設けられていなかったり、アメリカ企業に比べアフターサービスをおろそかにしているのは、消費者を企業の担い手として積極的に囲い込む重要性を理解していないからに違いない。インターネット時代の企業は、消費者との間のこの間合いをつかめないと、落ちこぼれかねない。

情報化は経営の道具

 どうやら日本企業では、情報化は個々の業務を効率化するための道具として認識されてきたに過ぎず、企業経営の道具としては、考えられてこなかったようだ。情報化は経営を舵取りするための便利な道具であり、経営者こそ使いこなさなければならないものなのに、相変わらず、情報化は情報担当者の仕事と見なされているのではないだろうか。日本は、失われた10年と言われ、不況にあえいでいたにもかかわらず、情報化を武器に体質改善するといった取り組みが進まなかったのは驚きだし、残念だ。

http://it.nikkei.co.jp/it/njh/njh.cfm


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Last-modified: 2006-08-19 (土) 10:55:50