パラフィリア(性的倒錯)は、精神医学または臨床精神医学では、性的嗜好に関する精神障害として把握されている。この場合、DSMなどでは、第一軸の臨床症状における「診断規準」で概念が記述されているが、この規準において、精神疾患であるとされる条件は少なくとも二つあり、1)当人がこの性嗜好によって、心的な葛藤や苦しみを持ち、健康な生活を送ることが困難であること。2)当人の人生における困難に加えて、その周囲の人々、交際相手や、所属する地域社会などにおいて、他の人々の健全な生活に対し問題を引き起こし、社会的に受け入れがたい行動等を抑制できないことである。 従って、これらの二つの条件を満たさない場合は、精神疾患としてのパラフィリアではないことになる。例えば、小児性愛の性的嗜好を持つ人がいたとして、当人自体にはそのことの苦悩や葛藤や生活上の困難・矛盾はないが、その行動によって、児童を心理的に身体的に傷つけたり、社会的な秩序にとって脅威となる場合は、これは、1)の条件を満たしていないのでパラフィリアではないが、社会的に問題のある人物として、別の精神疾患の規準が適用されることがある。 またこの逆に、当人は自己の性的嗜好で悩み苦しむが、社会的にはその行動に問題のない場合は、これもまたパラフィリアではない。更に、特定の性的嗜好を持っていたとしても、そのことにより、当人の心において葛藤や苦しみや問題は存在せず、社会的な行動からも何ら問題のない場合は、これは通常の許容される性的嗜好であり、精神障害としての性的倒錯(パラフィリア)ではない。 精神医学において、「性嗜好障害」とされるパラフィリアの類型は、性的嗜好の類型とほぼ重なっている。サディズム、マゾヒズム、性的フェティスムなどはパラフィリア(性的倒錯)の類型として記載されているが、これらは同時に、正常または健康の範疇に入る性的嗜好の類型である。 パラフィリアは、これらの性的嗜好が極端化したように見える場合があり、そのような事例もない訳ではないが、基本的には、精神に何らかの葛藤や矛盾や病理を持つ人物の「生き方」の様式(現存在様式)が、特定の性的嗜好の偏倚の形で表現され発現していると考えるのが寧ろ妥当である。多様な性的嗜好の類型があるが、それらは一部に先天的な素因が想定されるが、後天的な心的コンプレックスや心理的な固着、あるいはインプリンティングや水路付けの様式と見なすべきである。 |