組織依存症の日本人
―柳田邦男
 大事故を起こしたJR西日本の組織はずさんでたるんでいると批判されている。脱線電車に乗り合わせていた運転士二人が乗客の救助にあたらないで出勤を急いだり、多くの組敷の社員らが事故を知りながらボウリングやゴルフに出かけたりしたからだ。
 事故に巻き込まれた犠牲者たちの惨状を知れば、何かしなガれば気持ちがは
やるのがが人情だろう。近所の人たちは救助作業に駆けつけたのだ。社員たちの心をゆがめた根底にあるものを分析する必要がある。
 私は、日本人の組働依存症という視点で事態を見る。組織依存症はここまで人間の心を退廃さぜたのかと沈痛な気持ちにな利、あるジョークを思い出した。
 難破船からボートに乗り移つた美女一人を含む数人が離れ島に漂着した。イタリア入はすぐに美女に甘い言葉をかけ始め、アメリカ人はシャツを脱いでジムで鍛えた肉体を美女の視野にさらした。で、日本人は自分が何をすべきか本社の指示を仰ぐために、ケータイを取り出した―と。
 これはまさに、例の運転士たちの行動ではないか。
 日本人は所得の増大を目指して、「カイシャ、カイシャ」で働いてきた。加えてバブル崩壊後熾烈な企業の生き残り競争は、社員の価値観を業務成績向上ばかりに偏らせ、自分の所属する組織の業務以外のことには関心を持たない視野狭窄症に陥らせた。
 社内の業種別組織は利益共同体となり、組織あっての自分だから、他者の命より仲間のつき合いが優先される。
 この十年ほどの間に一流と言われる大企業が次々に事故や不正事件を起こしている。それらを検証すると、組織依存症はJR西日本に限らず、日本の企業に共通する病理に見えるのだ。
(やなぎだくにお=ノンフィクション作家)
2005/5/20 神戸新聞夕刊 5版


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Last-modified: 2006-08-19 (土) 10:55:48