およそ性的倒錯のなかでも、フェティシズムくらい、広範な領域をふくむものはあるまい。サラ・ベルナールの場合は、ネクロ・フェティシズム (死に関係のある表象や物体を愛すること)の極端な一例であろうが、そもそもこのフエティシズムには、肉体の一部や衣服や臭いのような、少なくとも人間の肉体に関係のあるものを愛好することから始まって、機械や物体のような非人格的な無機物、あるいはそれらの観念を愛好することまで、じつに多くの領域を包含しているのである。毛皮が好きな人もあれば、ゴムが好きな人もあり、革が好きな人もあれば、ガラス (たとえは医療器械)や鋼鉄(たとえば鎖)が好きな人もある。どんなものにでも、電気のように、性的欲望は充電するのである。
 病理学的なフェティッシュとして、潅腸器を好む人がもっとも多いのは、たぶん、この医療器具が幼児期の体験と密接に結びついているためであろう。しかしクリフォード・アレンの報告している例は、もっと面白い。つまり、その男は、ゴム製品のフェティシストで、薬屋から薬屋へと歩きまわって、美人の店員から、赤ん坊に吸わせるゴムの乳首を買うのが何よりの快楽だというのである。要するに、乳房コンプレックスの変形で、この幼児性格的な男は、薬局の女店員から、ゴムの乳首を自分の口のなかへ入れてもらうという、甘美な幻想をいだいていたのであろう。


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Last-modified: 2010-09-20 (月) 23:43:53