【営業が変わる(3)】
 営業のマネジメント
神戸大学大学院 経営学研究科 教授 石井 淳蔵
 住宅メーカーの営業を例にとって、営業プ
ロセスをステップに分解するやり方を前回
(2005.5.17 No.05−089)示した。これまで
1人の営業担当がしていた仕事が、モデルハ
ウスを案内する人、研究所で家作りを一緒に
考える人、等々に分担される。営業プロセス
の分割だ。それは、プロ野球で投手陣を分担
方式で、つまり先発・中継ぎ・抑えに分けて
戦っていくというやり方と似ている。この新
しいやり方は、以前の「エース投手が完投す
る」やり方と比べると、その効能がわかる。
 第1の効能は、試合運びが安定すること。
完投する工−スに頼る野球では、チ・ムの成
績は工−スの好不調の波に比例する。分担方
式だと、1人の投手が不調になっても代わり
の投手である程度カバーできる。結果、〜長期
にわたって安定して戦える。
 第2に、分担した仕事に応じてプロが生ま
れる。中継ぎや抑えの評価が高まり、江夏投
手のような抑えのプロが生まれる。メジャー
リ・グの長谷川投手のような中継ぎのプロだ
つて生まれる。5 日に一度登板する先発投手、
毎日登板する中継ぎ投手、勝ち試合で最終回
15球を全力で投げる抑えの投手。トレ−ニ
ングの仕方も投球術もすべて違う。それぞれ
に、専門的な技能と責任感(ミッション)が
生まれる。
 住宅のことがほとんどわかっていないお客
さんに対して、新しい住宅の特徴をわかりや
すく説明するモデルハウスの案内員。住宅を
買う気になって研究所にやってきたお客さん
の細かい要望に対して、詳しく実験を交えな
がら専門的な答えをする技術研究員。資金繰
りや土地の確保といったサービスを案内する
融資担当。住宅を買った後の様々な要求を受
けて対応するお客様窓口センター(そして、
実際に対応するガーデナー、インテリアデザ
イナー等)。お客さんとの関係を通して見る
営業担当。お客さんとの関係において、いく
つかの専門的なミッションが生まれる。お客
さんの問題は、人によって違うし時間と共に
違ってくる。それに機敏かっ正確に応じる仕
組みが大事なわけだが、営業プロセスをステ
ップに分割し、それぞれのステップに新しい
ミッションを作ることで、実現が可能になる。
 プロセス分割の効能はこれだけにとどまら
ない。お客さんの動態を掴むことができる。
これが−番の効能かもしれない。モデルハウ
スに来たお客さん、研究所に来たお客さん、
住宅を買ったお客さん、お客様センタ・に要
望を出したお客さん。プロセスを分解すれば、
それらの−連の数字は自然と入ってくる。さ
らには、モデルハウスに来たお客さんが研究
所に来て購入に至るまでの「時間」もわかる。
 これらのデータからは、いろんなことが読
み取れる。モデルハウスに来たお客さんの何
割が研究所に来たのか。研究所に来たお客さ
んの何割が購入したのか。そして、その時問
はどうか。これを前年と比較すれば、変化も
掴める。もし、状況が悪くなっているなら、
その原因もわかる。モデルハウスの問題か、
研究所の問題か、はたまたそれ以外の理由か。
理由や原因が違えば打つ手も違ってくる。
 そう。プロセス分解することで、お客さん
の動態を見ることができるのだ。自社が置か
れている問題がわかり、解決の方向もわかる。
 こんなにうまくいくかどうか別にして、プ
ロセス分解は、マネジャーにとっては欠かす
ことができない「マネジメントのインフラ」
になるのは請け合いだ。

#ls2(UFJ総研)


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