UFJ総合研究所 組織人事戦略部 プリンシパル 吉田 寿
◆成果主義では短期志向に走る?
***
 成果主義の何が誤解されているのか、今回
はこのテーマで論じてみよう.
 基本的に、成果主義の正しい定義が人事担
当者の間ですら共通認識として確立されてい
ないところに大きな問題が潜んでいるのだが、
これが一般ビジネスマンに対象を拡大すると、
さらに誤解・曲解が甚だしいという現実があ
り、成果主義の意味自体が持つ病巣はかなり
根深いことがわかる.
 このあたりの是正から始めなければならな
いのだが、いくつかの誤解についてまず解説
を加えたい.
 よく挙げられるのは、成果主義になると結
果いかんで自分の処遇が決まるから、目標に
掲げた目先の仕事ばかりに終始して、中・長
期を見据えた他の人たちとの協調的な行動が
取れなくなってしまうというものである.
 まず成果主義は、結果オンリーで血も涙も
なく社員を処遇するものではないという認識
を正しく持つ必要がある.通常、結果の部分
については確かに重視するが、プロセスの部
分を無視してはいないということである.も
ちろん、結果が出ない間違ったプロセスでは
論外だが、結果を導くための「正しいプロセ
ス」を評価する度量を成果主義は持ち合わせ
ているということである.
 中・長期的視点に立った協調行動も、その
意味合いの目標の中で、今期における目標の
位置づけを明確にすれば、短期志向に走る社
員の行動を抑止することはできるはずである.
◆成果主義は賃下げの道具?
 また、成果主義の持つ大いなる誤解の一つ
に、成果主義はリストラや賃下げの道具と考
えている一般社員が実に多いということだ.
−確かに一部の心ない会社では、業績不振を
理由に、総額人件費の抑制のために、そのよ
うな措置が取られている場合も確かにある.
しかし、将来展望を持たない成果主義は、早
晩破綻を来たすのは、火を見るよりも明らか
だ.実際に、このような急場しのぎの短期施
策として実施された成果主義が、組織にうま
く根付いている事例は皆無に等しい.
 さらに、成果主義になると給料が上がらな
いというのも、間違った解釈である.これは、
一部のマスコミなどで「定昇廃止」といった
ニュースを取り上げて、「これからは成果主
義の下、賃金が上がらない時代がやってく
る」などと喧伝するのもその一因であるが、
正確には、誰でも一律定期的に給与が上がる
「定期昇給」から、個人のミッションに基づ
く成果を正しく評価して昇給に結びつける
「評価昇給」へのシフトである.
 我々がコンサルティングしている成果主義
に基づく昇給管理の仕組みも、評価に応じて
適正な昇給格差を設けるためのものであり、
いたずらに給与を低く抑えるための仕組みを
導入することではない.さらに言えば、「B
評価」など期待水準に達している場合には、
きちんと昇給できる制度なのである.

◆成果主義だと人材が育たない?
 さらに、よく質問される内容にr成果主義
だと人材が育たないのではないか」というも
のがある.これもまったくの誤解である.
 成果主義に基づく評価の場合、基準の明確
化と公正な評価プロセスの提示、そして、評
価結果のフイードバックによる来期に向けた
課題の整理と人材育成のポイントの確認とい
うものが、ワンセットで導入される.このよ
うな評価を中心とした現場レベルでのマネジ
メント・プロセスの中で、定期的に評価・処
遇が実施され、結果として 「人が育つ」こと
につながっていくのである.
 評価制度を人材育成ツールとして戦略的に
活用しようとする視点が全く欠落していたた
めに、このような意見が出てくるのである.
 ※次回は「(3)成果主義の定義をとちえ直
  す」です.


#ls2(UFJ総研)

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