どれが重要な経済指標なのか UFJ総合研究所 調査部(東京) 主席研究員 鈴木 明彦 ◆重要な経済指標だから早く発表される 「あの国については、どの経済指標に注目す ればよいのか」と聞かれることがある。経済 指標といってもたくさんあるので、−つ挙げ てほしいなどといわれると、答えに窮するこ ともある。 そこで、他の国に比べて早く発表される指 標の中に重要な指標があるのではないかと考 えてみた。少なからぬ予算を割いてまで経済 統計を作るのは、政策上の必要性があるから だ。そして、その国にとって重要と考えられ る経済指標ほど、お金をかけてでも数字を早 く把握しようとするはずだからである。 ◆日本は貿易統計、米国は雇用統計、 中国は…… たとえば、日本では貿易統計の発表が早い。 上旬、上中旬の数字が発表される上に、月全 体の数字も翌月の24 日ごろには発表される。 ちなみに米国の貿易統計が発表されるのは、 翌々月の10 日ごろである。原料や燃料を外 国に依存する日本にとって、輸出を増やして 貿易収支の黒字を確保していくことが重要で あり、日本の経済情勢を把握するためには、 まず輸出入の数字を押さえることが必要だっ たのであろう。 これに対して、米国では雇用統計の発表時 期が早く、翌月の第1金曜日に発表される。 世界の金融市場は、毎月その発表を固唾を呑 んで見守っている。なぜ、米国では雇用統計 が重要なのか。 米国では企業の経営が厳しくなると、レイ オフ(−時解雇)や解雇といった形で雇用調 整が始まる。景気動向が雇用の数字に即座に 反映されるのである。また、米国では、個人 消責が主導して景気が回復することが多い。 雇用の動向が、個人消真に影響して、景気全 体を左右してくることを考えれば、雇用統計 の注目度が高まってきて当然である。 中国では何に注目すればよいのか。中国で 意外と早く発表されるのがGDP(国内総生 産)である。今年1〜3月期のGDPの数字 は4月 20日に発表されており、米国(4月 28 日発表)より早い。ちなみに、日本の GDPが発表されたのは昨日(5月17日)の ことである。 今の中国経済にとって重要なことは、経済 成長が波乱なく続くのか、l過熱しすぎて腰折 れしてしまうのかという点である。中国の政 策当局者が使う言葉に、マクロコントロール というものがある。細かいことはさておき、 経済全体(マクロ経済)が政策運営によって うまくコントロールされていれば、心配には 及ばないということである。12億の人口を かかえる中国のような大国が、どうして GDP の数字をそんなに早く発表できるのか、 多くの人が心の中で疑問を感じつつも、中国 のGDPに注目が集まっている。 ◆日本でも雇用統計の重要性が高まる ところで、いつまでも同じ指標に注目して いてよいのか。経済構造が変わってくれば、 注目すべき指標も変わってくる。日本にとっ て今でも輸出の数字は重要であるが、別な指 標の重要性が増しているのではないか。たと えば、雇用の数字である。 終身雇用制のもとでは、会社の経営が多少 厳しくなっても従業員を解雇するようなこと はあまりなかったので、失業率は低い水準で 推移していた。しかし、終身雇用制が崩れて くれば、景気の変動によって雇用が変動しや すくなり、その結果、安定度が高いといわれ る個人消章も影響を受けてくる。 実は、日本の雇用統計は徐々に充実してき ている。就業者数や雇用者数は前年比の変化 しかわからなかったが、今では季節調整した 数字も発表されている。前月と比べた変化が わかるので、雇用情勢をより的確に把握でき る。こうした改善に加えて、雇用統計をもっ と早く発表してほしいという声が高まってく るかもしれない。 #ls2(UFJ総研)