その前は?「ビッグバンの前にはもうひとつの「古い宇宙」があった」

 この記事ではビッグバン仮説が否定されたような印象を受けるかもしれないが、ビッグバン仮説を否定しようとはしていない。ビッグバン仮説が説明できていない「ビッグバンが起こる瞬間」「ビッグバンが起こる前」の仮説を提供しただけだ。科学者はそのことは十分分かっているだろうが、記事を書いた人間(あるいは翻訳者)がそれを意識していないために間違った論調になってしまう(wired に限らず、マスコミの科学記事にこの間違いが多い)。

 ビッグバン仮説は宇宙の始まりをビッグバンと予想している。下に書いてあるものはそれに代わることができない。なぜなら「今の宇宙の元になった前の宇宙がどうやって出来たか」に答えていないからだ。

 仮に、現宇宙が前宇宙が収縮後に拡大したものだとして、その膨張と収縮は永遠に繰り返されるのか。繰り返しているとして、膨張から収縮に移るきっかけ(あるいは時期)は何なのかの説明ができないと、下の理論は片手落ちだろう。

ビッグバンの前にはもうひとつの「古い宇宙」があった:研究結果|WIRED.jp

宇宙はビッグバンから始まった…という通説は間違っていたのかもしれない。現在の宇宙は、収縮状態にあった「古い宇宙」が膨張し始めたことで生まれたということを、量子力学を用いて示す研究が発表された。

宇宙は常に膨張状態にあり、それは「ビッグバン」──無限大の密度をもつ高温の1点からの爆発によって始まった、と一般的に考えられている。

しかし、初期の宇宙に関する研究によって、宇宙はまったく新しいものから始まったのではなく、古い壊れかけの宇宙から形成されたのかもしれないということが示された。

物理学者たちは、このアイデアについて長い間議論してきた。ビッグバン理論では、われわれが理解している物理法則に反する状態から宇宙が始まったことになるからだ。その代わりに、宇宙には「収縮」と「膨張」の2つの時期があり、それがビッグバンのタイミングで切り替わったのだと考える科学者もいる。

このいわゆる「ビッグバウンス」理論は、1922年に発表されたものである。しかし、宇宙がどのようにして収縮状態から膨張状態に移行したのか(あるいは逆に膨張から収縮に移行するのか)を物理学者たちは説明できずに議論は保留されていた。いままでずっと。

宇宙を助けたクオンタム

インペリアル・カレッジ・ロンドンのステフェン・ギーレン博士とカナダのペリメーター理論物理学研究所の所長であるニール・トゥロク博士は、どのようにビッグバウンスが起こりうるかを発表した。

研究によれば初期の宇宙は、宇宙全体の構造から原子レヴェルにまで同じように物理法則が働いて、すべてのスケールにおいて同じ挙動を示していたという。この考えは「コンフォーマルシンメトリー」として知られている。

現代の宇宙では、原子より小さい粒子は大きい物質とは異なる挙動を示すので、このシンメトリーは崩れている。素粒子は、いわゆる量子力学の支配下にあるからだ。

しかし初期の宇宙では、すべてのものが信じられないほど小さかったので、わたしたちが現在目にする大きなスケールでの物理学ではなく、量子力学の原理だけが適用されていたという。

宇宙が始まったころはコンフォーマルシンメトリーの状態にあり、それが量子力学のルールに則るという考えを用いて、ギーレン博士とトゥロク博士はどのように宇宙が進化したかを説明する数理モデルを構築した。量子力学を使うことで、現在の宇宙は1点から始まったのではなく、収縮する古い宇宙から始まったと説明するものだ。

2人は特に、量子力学が働いていたからこそ、収縮段階の終盤に宇宙の崩壊や破壊(ビッグクランチやビッグリップとして知られる)が起こらなかったのだろうと考えている。その代わり、宇宙は完全に崩壊することなく収縮状態から膨張状態へ変遷したのだと。

ギーレン博士は言う。「量子力学は、物事が破壊するときにわたしたちを助けてくれます。それは電子の落下を防ぎ、原子が壊れないようにしてくれるのです。だからおそらく、量子力学が、ビッグバンとビッグクランチが起こりうるような激しい終わりと始まりの時期に宇宙を救ったのでしょう」

「わたしたちの研究の驚くべき点は、ビッグバンのいちばん最初の瞬間を量子力学に基いて説明したということです。合理的に、最小限の仮定を使ってね」とトゥロク博士はつけ加える。「この仮説によれば、ビッグバンは収縮を膨張に転換する『バウンス』だったのです」

2人はいま、このモデルを使って「ゆらぎ」として知られる宇宙の摂動の起源を説明できないか調査しているという。この研究は『Physical Review Letters』で発表された。

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