画竜点睛を欠く:日本企業の負けパターン EPSON Pulsense

フィットネス・トラッカーは Jawbone Up3 に決まった。フィットネス・トラッカーについて調べている際に日本企業の負けパターンに遭遇したので書き留めておく。

 企業は EPSON。EPSON が心拍を記録できるフィットネス・トラッカー(Pulsense)を発売するという情報をTLで知って調べた。しかし、サイトには EPSON のそれが iOS のヘルスケアと同期できるかどうかわからなかった。

 そこで、問い合せ先を調べたがなかなか見当たらなかった(減点10)。製品別の問い合わせ先には電話とメールという選択肢があったが、メールの問い合わせをするには製品登録しなければならない仕様だった。発売されいない製品を登録しているはずがないのにだ(減点10)。自分はたまたま EPSON のプリンタを使っているので、アカウントを持っていたから良かったが、そうでなければこの時点で諦めてしまう人も多いだろう。

 Pulsense のお問い合わせページの「ホームページからのお問い合わせ」ボタンをクリックして表示されたフォームにアカウント情報を入れて現れたフォームはプリンタ用のものだった。フィットネス・トラッカーのページから入っているのにプリンタ用の選択肢が入力必須だ。製品別になっている意味が無い(減点10)。仕方なく、持っているプリンタと使用環境を入力し、質問の内容を問い合わせ内容に入力して送信した。

 すぐに受付メールが返信され翌日には正式の返事が届いた。ここはちゃんとしている。さすがEPSON(加点10)。

 答えは、「お問い合わせいただきました、iOS 8のヘルスケアとの連携の件につきましては、誠に恐縮ではございますが、現在のところ、予定がございません。」(減点50)

 結果 ハードウェア(90点) – 80 + 10 = 20 点 不合格

講評

 
 問題点は二つ。せっかく興味を持って来た見込み顧客に対して期待に添えないサイトとハードだけ作って終わりという姿勢。

 まず、 サイトから。発売前後の商品に対しては質問が集中するし、購入前なのだから EPSON のユーザアカウントを持っていない可能性が高い。そういうユーザこそが見込顧客なのだ。なのに、それを受け入れる用意がない。新商品への質問はその後の製品の改良につながる重要な情報だ。メーカーが思っているのと違う用途の提案があるかもしれないし、競合他社の情報を仕入れられる可能性もある。

 次が致命的だが、自社の持つノウハウや製造技術を活用することだけ考えて、作ったらそれっきりという発想。「いいものを作れば売れる」というのは競合他社がいないような市場だけだ。フィットネス・トラッカー市場はライバルが次々参入している。来年には iWatch が発売される。いいものを作ったからといって満足して止まっていたら置いて行かれる。他社は走っている。心拍を取れるフィットネス・トラッカーは珍しかったが Jawbone が発表してしまった。しかも、Jawbone は iOS 市場で実績がありヘルスケアにも対応済だ。

 こういうデバイス、スマートフォンとの連携を前提としたデバイスは、デバイスのエコシステムに食い込むことが何より重要だ。ハードが同等の場合、サポートするアプリが多いということはそれだけ価値が高いということだ。これは Dropbox が未だにプラットフォームオーナーのサービスと互角に戦えていることからわかる。Dropbox は iCloud、OneDrive、GoogleDrive より先に iOS エコシステムに食い込み、他社のアプリとの連携を可能にした。その基盤を基にOS間をまたぐオンラインストレージになった。だから、巨大な Apple、Google、Microsoft に対して優位に立てているのだ。Dropbox の成功直後に雨後の筍のように現れたストレージサービスの多くが消えたのはこの差だ。

 2014/10。Apple がヘルスケアにより、iOS での健康管理サービスを再定義した。これまで、様々なヘルス管理アプリはバラバラで閉じられていた。これからは、違う。フィットネス・トラッカーを他社の製品にしても、ログはヘルスケア上で引き継がれる。ヘルスケアとの互換性は必要条件だ。この点で EPSON はヘルスケアのエコシステムへの参加を降りたのと同じだ。

 なぜヘルスケアにこだわるのかというと、iPhone ユーザという市場がフィットネス・トラッカーの市場として相関が強いと考えられるからだ(Apple が掘る次の鉱脈はヘルスケアか?)。フィットネス・トラッカーを使っているユーザで iPhone を使っていない人は多くないのではないか。しかも、iPhone は最新バージョンの OS への移行が圧倒的に速い。iPhone 4S のような古い端末からアップデートを可能にしていることもあり、市場に出回っている iOS デバイスの大半が最新 OS にアップデートされる。Android の端末の大半が最新 OS にアップデートされずに終わるのと正反対だ。Android OS シェアは iOS よりはるかに大きいかもしれないが、大半はチープ端末で Bluetooth 4 に対応していない物も多い。OS も古いバージョンを搭載した機種が新機種として売られている。これが収束することはない。だから、iOS 8.1 のヘルスケアは見込顧客の数が圧倒的に多い市場なのだ。

 一番問題なのは、この状況を EPSON が把握していないように見えることだ。自分が担当者なら、すぐにでも開発に HealthKit への対応を進めるように依頼すると同時に、サイトのアプリ紹介ページに「現在のアプリはヘルスケアに対応していませんが、アップデートで対応する予定」と明記する。その姿勢を見せることで iPhone ユーザは安心して EPSON を買うことが出来る。アップデートに時間がかかるようだと批判を浴びるかもしれないが、EPSON の開発陣が HealthKit 対応にそれほど手間取るとは思えない(まあ、開発は外注先かも知れないが・・・)。

 心拍をとれるフィットネス・トラッカーは未だ多くない。Jawbone Up3 もまだ発売されていない。今がチャンスだ。頑張れ EPSON。Jawbone Up3 が日本で予約開始される前にヘルスケア対応へのアナウンスがあれば EPSON の[エプソン パルセンス]EPSON PULSENSE 腕時計 脈拍計測機能付活動量計 PS-100を買うから。

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