これはスタートアップに限らない。ビジネスにおける全ての成功体験が同じ危険をはらんでいる。
声の大きな立場の一言でやってみたものの市場に受け入れられず消えていくモノを観るのは大好きでここでもよく取り上げている。「こんなもん、金を出して買う立場になったら、買わへんて分かるやろ」というようなものが出てくる。例えば、Sony の Qualia、Rolly。Olympus m:robe なんかはすぐに思い当たる。他にもいっぱいあって思い出せないくらいだ。
ただし、この問題はコンシューマー製品を扱っている業種だけではない。一般企業でも、たまたまうまくいった施策があったらそれに引っ張られてしまう。これは自分にも当てはまるかもしれない。自分はVBAで処理するのが好きでデータをリストにしてVBAで処理しようと考える。しかし、一回きりの作業ならマクロを組むのは時間の無駄かもしれない。ついつい、自分の得意な、というか好きな方法を使おうとしてしまう。ところが、VBA を作るのは他のメンバーにはハードルが高く時間がかかる。
なんでも、自分の好きなやり方に固執するのは間違いだし気をつけなければならない。A4のレポートを書くのにExcelを使ってしまったり、表を描くのにWordを使ってしまう職人になることがないように注意しなければならない。
スタートアップが陥るIKEA効果の罠―MVPセオリーに固執するのは危険だ | TechCrunch Japan
2014年3月4日 BillAuletCartoon
何かを闇雲に作るだけではスタートアップは成功できない。「でも素早く作ることが肝心なんでしょう?」と私はよく質問される。それはそのとおりだ。昔、大企業が古臭いウォーターフォール型開発に固執していた頃、起業家はできるだけ速く実際に動くプロダクトを作ってしまうという「実用最小限のプロダクト」(MVP=Minimum Viable Product)手法を編み出し、開発のスピードを画期的に加速した。プロダクトの機能を本当に必要な範囲だけに絞り込み、いち早く製品をリリースしてユーザーからのフィードバックを得て、すばやく改良を加えていくというモデルだ。
しかし今や振り子は反対側に振れ過ぎている。ユーザーが何を求めているかを調べる時間を取らずにひたすらプロダクトを素早く作ることだけを考える傾向が見られる。そうした闇雲な開発の結果、プロダクトは方向性を失い、スタートアップは「IKEA効果」として知られる陥穽に落ち込むことになる。
IKEA効果は「人は自分で作ったものに本来以上の価値を与えてしまう」現象でMichael Norton、Daniel Mochon、Dan Arielyによって発見された。この3人は折り紙の愛好家を対象に実験を行った。愛好家に専門家が作った作品と自分たちの作品を評価させたところ、客観的に見て専門家の作品n方がはるかに質が高いにもかかわらず、愛好家は自分の作品の方を高く評価する傾向が見られた。IKEA効果という名前はもちろん誰でも知っているスウェーデンの組み立て式家具のメーカーにちなんでいいる。つまりわれわれは何かを自分で作るや否や、評価モードから擁護者モードに入ってしい、客観的な基準に基づく判断ができなくなる傾向がある。われわれは何かを自分で作るや否や、評価モードから擁護者モードに入ってしい、客観的な基準に基づく判断ができなくなる傾向がある。
最近の私の教え子のチーム(次に述べるような事情から特に名を秘す)は、自分で開発したテクノロジーに心底夢中になってしまった。彼らはコンピュータ・インタフェースの改良に重要な貢献をなし得る画期的テクノロジーを開発した。デモを行うたびに強い関心が寄せられた。彼らは有頂天になり、デモの際に寄せられた要望にもとづいて新機能を追加していった。印象的なデモにより、このチームはビジネスプランのコンペと投資家から資金を得た。ところが結果的にこれが最悪の結果を招く原因になった。
カンファレンスでデモを見る人々、ビジネスプラン・コンペの審査員、ベンチャーキャピタリストは誰一人プロダクトに自分で金を払うユーザーではない。開発チームがMVP〔最小限実用的なプロダクト〕と称したものは、単に見栄えのするコンセプト・モデルだった。彼らは「仮説を実証している」と称したが、テクノロジー上のあるコンセプトが実現可能であることを示しているに過ぎなかった。そのうちに彼らは「ピボットした」。つまり有効なビジネス・プランを生み出せないままに金が尽き始めたのだ。結局彼らは現実的な成果を何も生み出すことができなかった。
なぜ彼らは貴重な時間と資源を無駄遣いする羽目に陥ったのか? それは自分たちで開発したためにそのテクノロジーに強過ぎる愛着を持ってしまったからだ。「きみたちはそのテクノロジーに金を払うユーザーを見つけるのに失敗している。ユーザーと会話して本当のニーズを調べなおすべきだ」と忠告しても聞く耳もたなかっただろう。彼らはまさにIKEA効果の犠牲者になっていた。
別の教え子チーム、FINsixはこれと別の道を行った。同社は従来のサイズの4分の1の超小型ノートパソコン用電源アダプターを開発し、先月CESで各種の賞を獲得し各方面から注目の的になっている。
しかし彼らが私のクラスに入ってきたときに持っていたのは実験室で有望そうなテクノロジー・コンセプトに過ぎなかった。なるほどハードウェア・ギークには興味深いテクノロジーだった。従来のAC/DCコンバータより1000倍高速なVHF帯スイッチングを利用することによってサイズを10分の1にできる。また磁芯のような重い部品を使わずにすむ。物理的な衝撃、振動にも強い。
しかしながら、こういうテクノロジー上の特長は、一般消費者が金を払う動機にはならない。FINsixは賢明にもこの点を認識していた。そこでプロダクトの開発に突進する前に消費者のニーズを慎重に調査した。
「われわれは電子パンフレットを作って(VHFスイッチング)コンセプトに対する反応をさまざまな市場から収集した。広汎な調査の結果、われわれの新しい電源がもっとも受け入れられやすいのはノートパソコンの分野だと判明した」と共同ファウンダー、CEOのVanessa Greenは言う。パンフレット、というところに注目していただきたい。
実際に開発されたMVPに比べて電子パンフレットはIKEA効果を起こす危険性が格段に少ない。FINsixチームはスマートフォンからLED照明までさまざまな市場の可能性を探り、最終的にノートパソコンの電源がもっとも売れそうだと結論した。最初のプロダクトが売上をもたらせば会社を持続させ、さらに新しいプロダクトを開発することが可能になる。
自分が開発したプロトタイプに惚れ込んでしまって、それを誰も欲しがっていないことに気づかなければ、本当にユーザーが必要としている正しいプロダクトを開発するのは不可能だ。
優れたプロダクトを作るにはそれに見合った適切なユーザーグループの存在が不可欠だ。ところが自分が開発したプロトタイプに惚れ込んでしまって、それを誰も欲しがっていないことに気づかなければ、本当にユーザーが必要としている正しいプロダクトを開発するのは不可能だ。
「資金が尽きる前にテクノロジーに惚れ込んだ大企業に買収される」というのがスタートアップ設立の目的なら別だが、そうでなければテクノロジーに執着してプロダクトを作るのをひとまず措いて、ユーザーと虚心坦懐に会話して本当のニーズを探らなければならない。それはギークにとって開発に没頭するより面白くない経験かもしれないが、買収されるという運任せのルーレットに一喜一憂するよりずっと健全な方向だ。優れたテクノロジーと優れたマーケティングを基礎としなければ優れたプロダクトを作ることはできない。われわれはこれを「規律ある起業」と呼んでいる。テクノロジーとマーケティングを二律背反的に考えるのは近視眼的な誤りだ。
私の考えは東海岸の保守的な起業家精神を代表しているのだというように考える読者もいるかもしれない。しかし先週サンフランシスコを訪問して、T3 AdvisorsのDavid Bergeron、Rapt StudioのCory Sistrunk、Ed Hallらと話したところ、ぴったり意見が一致した。「行き過ぎたMVPメンタリティは、プロダクト・デザインにおいてもっとも重要jなユーザー中心主義を忘れさせる危険性がある。起業家は『どのように』開発する、『何を』開発するかを考える前に「なぜ」開発するかをを考えることが大切だ」と彼らは語った。
さらに言えば、起業家はMVPに執着するのを止めて、まず第一に「誰のために」開発するのかをを明確にさせることが大切だ。