覚えておきたい人物。
サイクリングニュース : CYCLINGTIME.com
あなたはグレアム・オブリーと言う名を聞いたことがあるだろうか。オブリーは当時アマチュアとして、ガレージで自分で子供用自転車を改造し、壊れた洗濯機のベアリングなどを使って作った自作の自転車で、自転車レース界の英雄フランチェスコ・モゼールが保持していたアワーレコード(どの位の平均時速で1時間を走り切るか)に挑戦し見事更新した伝説の男だ。その奇抜な自転車とライディング・フォームは自転車界の常識を超越したものであり、「タックフォーム」、「オブリー・ポジション・Mk-1」と呼ばれた。そしてその後プロチームとロード選手として契約を結ぶが、念願のツール・ド・フランス出走を前に突如チームを解雇された。ドーピングの要求をするチームに対して”ノー”と言ったことによる解雇だと言われている。
それに加えて当時TTのスペシャリストとして名を馳せていたクリス・ボードマンにアワーレコードを破られると、記録に再度挑戦しようとするが、唐突にUCIがルール変更、なんと彼が考案する特殊なライディング・フォームを禁止したのである。これは明文化されなかったために、オブリーは世界選手権出走僅か1時間前にこの事実を知らされることとなった。これはプロでもない選手に、しかも廃品利用の自転車で自転車界の英雄の記録を塗り替えられ、顔に泥を塗られた形となったプロ自転車界を統括する当時のUCI会長の一存による報復だったと言われている。
そんな逆境ももろともせず今度は独特の「スーパーマンポジション」と呼ばれる「オブリー・ポジションMk.2」を考案し、見事再度アワーレコードを塗り替えてみせた。しかしこの後またしてもUCIがルールを変更し、アワーレコードにはエアロパイプを使用しないダイヤモンドフレームの使用のみを認めると決定すると共に、オブリーの過去の記録を全て抹消したのだ。結果論においてこの変更が、今も引き継がれる「UCIレースではダイヤモンドフレームしか使用できない」という基本ルールとなった事を考えれば、オブリーが自転車界に及ぼした影響の大きさがよく分かるだろう。
執拗なまでの嫌がらせとも思えるUCIの対応、またプライベートにおいてもに不遇の人生を送るがそのグレアム・オブリーが再び自転車での記録更新を目論み復活してきた。今回は人力での地上最高速度の記録更新を目指している。
そしてまたしても自転車はオリジナルで制作した自転車に、また想像だにしなかったようなライディングポジションで挑むのだ。うつ伏せに寝転がる形で、どう考えても心地よいとはいえないこのポジションで本当に記録が出せるのだろうか?そんな疑問が頭をよぎるが、オブリーは至って冷静だ。「カウルを通して自分の進む方向(前)がきちんと確認できて真っ直ぐ走ることが出来れば、記録は達成できるよ。」???!!!前が見えてまっすぐ走れれば?こんな突拍子もない答えが当たり前のようにすんなり返ってくるところもまたオブリーらしい。