精神薄弱か狂人に近いような人肉嗜食魔の例なら、過去の歴史にいくらでも見つかる。ザボロフスキーの報告には、一人の老婆を殺して、じゃが芋といっしょに煮て食ったという、頭のおかしな男の例がある。一九六二年といえば、つい最近のことであるが、この年の六月五日付「ウィーン新聞」 に、次のような奇怪な記事が載った。トルコのイズミル市の警察が、アルコール焜炉の上で、女の腕と脚をぐつぐつ煮ている男を逮捕した。男の言うところによると、「これはおれの別れた女房さ……」この男も気がふれていたのだ。 色情狂の女にも、ときどき抑えがたい人肉嗜食の欲望にとらわれる者がいるらしい。十七世紀のミラノで、ある妊娠中の女が、隣家のパン屋の亭主を殺し、塩で味をつけて食ったという話が残っている。一六一七年、ハンブルグ発行のある医学書に、ちゃんと記載されている正真正銘の事実である。 #ls2(妖人奇人館/人肉嗜食魔たち)