#freeze
メロヴェの末路はまことに憐れである。生き別れに愛人のあとを追って、彼は必死の思いで僧院を脱走し、はるばるメッツの城の下まで来たのであるが、すでにブリュヌオーは伯爵リュピュスと懇ろの仲になっていて、会うことができない。絶望して、ふたたびトゥールに戻ってきたところを、父の部下に発見されて捕らえられ、牢に入れられる。牢のなかで、彼は一緒にいた家来に頼んで、喉をついてもらって自殺したのである。
このメロヴェの死を皮切りにして、怖ろしい殺戮が王国内に相次いで起る。いずれも王妃フレデゴンドの仕業で、彼女はこうして自分の邪魔者を次々除いていったのだ。
まず最初に、シルペリクがオードヴェールに生ませた男の子、つまりメロヴェの弟にあたるクロヴィスが、パリに近いシェルの町の血祭りにあげられた。屍体はマルヌ河に投げこまれた。
次にフレデゴンドが狙いをつけたのは、昔の恋仇きオードヴェールであった。彼女は王妃の地位を追われて以来、マンスの修道院で細々と生きていたが、五八一年、ついになぶり殺された。
不幸なクロヴィスの妻もまた、捕らえられて、生きながら焼き殺された。
次の犠牲者は、ルーアンの司教プレテクスタであった。彼はメロヴェとブリュヌオーの結婚式に立会ったので、フレデゴンドの怨みを買っていたのである。司教は教会のなかで殴り殺された。
最後の犠牲者は、夫のシルペリクである。夫のために何度も苦杯をなめさせられていた彼女は、以前から彼を深く憎んでいて、いずれは殺してやろうと考えていたらしい。五八四年九月、猪狩から帰ってきた王は、喉の渇きをおぼえたので、一杯の葡萄酒をもらって飲んだ。そしてその晩、ぽっくり死んだのである。たぶん毒酒だったのだろう。
結局、彼女が命じて殺させた人間は、最初の犠牲者ガルスウィントからはじまって、男女ともども総計七人におよんでいる。史上まれに見る大悪女というべきであろう。
王を殺して、フレデゴンドはついに宿望の絶対権力をわが手におさめた。彼女自身にも子供はいたが、上の二人が天然痘でばたばた死んだので、残る一人は、誕生後わずか数カ月の赤ん坊にすぎなかった。邪魔になる親類縁者のことごとくを殺害してしまったのだから、じつに怖るべき権力欲の女性である。
#ls2(世界悪女物語/フレデゴンドとブリュヌオー)